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70年代が描く「いま」を丁寧に撮り上げた、バリー・ジェンキンス監督『ビール・ストリートの恋人たち』

70年代が描く「いま」を丁寧に撮り上げた、バリー・ジェンキンス監督『ビール・ストリートの恋人たち』


社会問題が凝縮されたストーリー



 TVで黒人の犯罪者が逮捕される様子がニュースやドキュメンタリー番組でよく放送されていたように、「黒人は危険」という、一方的なネガティブキャンペーンは、アメリカ初期の大ヒット映画『國民の創生』(1915)から始まったという。


 この映画では、黒人男性が白人の女性を強姦しようとしたり、人種差別や加害行為をする白人集団“KKK”を英雄に祭りたてる場面がある。だがデータによると、異人種間のレイプ事件の件数は、黒人男性によるものよりも、白人男性によるものの方がはるかに多いということが明らかになっている。特定の人種の犯罪が誇張され、あるいはねつ造され社会問題化していく。そのような空気のなかで裁判所の判断が下され、警官や刑務官などによる人権侵害が見過ごされてきた。




 驚くべきことに、原作『ビール・ストリートの恋人たち』は、発表された74年当時から、アフリカ系の市民の脅威となる、これら一連の問題の要素の多くが扱われているのである。それは来る80年代以降、現在までに起こり続ける問題すらも見通しているように感じられる。だからこそジェンキンス監督は、この作品を映画化する意義を感じ続けることができたのではないだろうか。本作は、70年代を描きながら、まさに“いま”を描いているのだ。



長い長い絶望と、あまりにもささやかな希望



 『ムーンライト』において、ある人物に思いを寄せる主人公が、ダイナーで彼との特別な時間を噛み締めるように過ごす様子を、非常に長く時間をとったシーンで表現した箇所があった。ジェンキンス監督は同様の演出を、本作では真逆の描写に使用している。それは、ドラマ『アトランタ』(16)にも出演していたブライアン・タイリー・ヘンリーが演じるファニーのいとこが、自身が刑務所で受けた仕打ちについて語る場面である。長い長い無言の時間。ゆっくりと大儀そうに煙を吐き出して、やっと短く絞り出すように口にするのは、白人というものがどれだけ悪魔的なのかを吐露する言葉だ。




 前述したドキュメンタリーが示すように、刑務所のなかでは犯罪者として、とくに黒人は奴隷同然に扱われてきた。つまり彼は、70年代において前時代的な差別行為や虐待を受け、人間性を剥奪されたのだ。彼が口を開くまでの無言の時間から、受けただろう心の傷の深さが伝わってくる。刑務所の惨状をそのまま描くことなしに、ジェンキンス監督は非常にスマートな演出で苦悩を表現する。そしてファニーは、そんな刑務所に冤罪で収監され、地獄を経験するのだ。


 ファニーは、芸術家であることを禁止され、恋人とも、生まれてくる自分の子どもとも引き離され、人権を奪われ虐待を受けながら刑務所のなかで家具を作り続ける。それは、魂が殺されることと同じだ。魂が殺されたのは彼ばかりではない。彼と引き離され、あるべき人生を奪われたティッシュや家族たち、そして冤罪につながる証言をしてしまった強姦事件の被害者も、理不尽な暴力によって傷つき人生を変えられてしまった。最終的に、弱者が苦痛を押し付けられる。社会はそのような理不尽な仕組みで成り立っている。本作が糾弾するのは、現在にもはびこる、そんな狂気じみたシステムなのだ。




 そんななか、ティッシュとファニーを助けようとするのは家族たちであり、彼らに親切にするのは、社会のなかでマイノリティとして扱われている人々の緩い結束である。強い者たちが自分の味方になってくれないのなら、弱い者同士が寄り添うしかない。本作には、希望をほのかに感じるラストシーンが付け加えてある。しかし、それは甘いものでは全然ない。彼らにとっての希望とは、手をつなぎ合い、現在を耐え抜くことだけなのだ。



文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter: @kmovie


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作品情報を見る



『ビール・ストリートの恋人たち』

2019年2月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

配給:ロングライド

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