見せ場となるシーンをワンカットで撮るという無謀な試み
いかに登場人物たちの内面を描くか。この命題を克服すべく、本作では「語り」や「構成」の面で緻密な技術が駆使されている。だがこれはネタバレになるのでここでは触れるまい。代わりに言及したいのは、登場人物の置かれた状況を、その目や心を通じて叙情的に描くという試みである。
とりわけそれが言葉を失うほどの圧巻の情景として現れる箇所こそ、ダンケルクの海辺のシーンだ。時は1940年。数千人から数万人にも昇る兵士たちは、いつ来るともわからぬ助けの船を待ちながら、この夕暮れ時の混沌を、成す術もなくやり過ごしている。
近年ではクリストファー・ノーラン監督も『ダンケルク』(17)にてこの過酷な状況を描いたが、本作『つぐない』が選択した方法論はそれとは全く違う画期的なものだった。というのも、ここでは海辺の様子が、5分間6秒の長回しにて一息で描かれているのだ。
『ダンケルク』予告
「その構想を聞かされた時、真っ青になったよ。でもそれがうまくいけば、すごいシーンになると思った」とは撮影監督のシーマス・マクガービーの言葉。
またこの時、ステディカムを操作したピーター・ロバートソン(彼は『ボヘミアン・ラプソディ』や『メリー・ポピンズ・リターンズ』なども担当)に関しては、クレジットの上位にその名がくることはないものの、主演のジェームズ・マカヴォイをして「(彼の功績は)アカデミー賞ものだ!」と言わしめるほどだ。