(c) The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017
『荒野にて』 少年と馬の境遇が映し出したのは、現代の“アメリカ”
チャンスの国の貧困問題
『荒馬と女』が示唆したアメリカは、その後どうなったのか。経済界がより大きな力を握り、議会が富裕層に掌握されつつある現代では、大企業が優遇され、福祉はより軽視されるようになった。この極端な政策によって、貧富の格差は年々増大し、アメリカは最も経済的に豊かでありながら、世界的に見ても多くの生活困窮者が存在するという、きわめていびつな状況となっている。
ウィリー・ヴローティンが本作の原作小説を発表した2010年は、リーマン・ショックによって、多くの市民が経済的な打撃を受け、家を失い、大手銀行が公的資金投入で助けられた後の状況である。とはいえ、共和党から民主党のオバマ大統領へと代わり、社会変革が行われる期待が生まれたタイミングでもある。
だが近年になって、また状況が変わった。「“Make America Great Again” メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(アメリカをふたたび偉大な国へ)」を標榜し、過去の価値観を賛美するとともに、人種差別、女性蔑視の発言を繰り返したドナルド・トランプが、大統領選で勝利したことからも分かるとおり、まだまだアメリカ全体においては、古い価値観が根強く求められていることが示されたのである。
『荒野にて』(c) The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017
そのなかには、貧しい暮らしをしているのにも関わらず、貧富の差を広げる政策をも支持する人々が少なくない。取材者がマイクを向けると、「アメリカはチャンスの国だ。自分はチャンスをものにできなかったが、アメリカは共産主義ではないのだから、そういう国であるべきだ」と答える人もいる。
だが、貧困家庭でろくに教育を受けられない子どもたちが、わずかなチャンスをものにできる可能性は、さらに限り無く低い。多くの場合、格差は世代を超えて固定化され、金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏になっていく。これがチャンスの国だといえるだろうか。