時の法則に逆らい、映画の法則も覆した『ある日どこかで』が長く愛される理由とは

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2019.04.25清藤秀人

世界中のピアニストが憧れる名曲に

　バリーがこの曲を作曲したのは、最愛の父と母を立て続けに亡くした直後のことだったという。その喪失感が自然にメロディを紡がせたのではないかと、本人は後述している。亡くした人と帰らぬ時間への思い。それが音符を動かし、かくも長く、多くの人々の琴線に触れるのかもしれない。

　ジョン・バリーと言えば、『007』シリーズやアカデミー賞に輝いた『野生のエルザ』(66)が有名だが、実はそれは表層に過ぎない。音楽通の間では『ある日どこかで』こそが彼のベストワークとの見方が定着している。もし、興味があればYouTubeで"Somewhere in Time"で検索してみて頂きたい。すると、世界中のプロ、アマを問わないピアニストたちによる、思い思いの"Somewhere in Time"にヒットするはずだ。この曲は彼らにとっては登竜門、言わばバイエルなのである。

ヒューロン湖畔に毎年ファンが集結

　ところで、ファンクラブである。映画の公開後、1990年に熱烈なファンによって立ち上がったのが"INSITE"だ。同組織は公式ホームページを運営していて、サイト内では映画のDVDは勿論、作品にちなんだグッズが販売されている、また、毎年、物語の舞台となったアメリカ、ミシガン州のヒューロン湖に面した町のランドマーク、グランド・ホテルに世界中からファンが集結し、映画の上映会が催されている。開催日は映画が公開された月と同じ10月。

　当初の映画会社の予想を覆し、それほどまで長く愛される映画というのも、そう多くないのではないだろうか。時の法則を破った物語は、同時に、映画の法則をも覆したのだ。

文 : 清藤秀人(きよとう　ひでと)

アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。

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