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50年代究極の娯楽作『北北西に進路を取れ』に見るヒッチコックの監督術

(c)2009 Turner Entertainment Co. and Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

50年代究極の娯楽作『北北西に進路を取れ』に見るヒッチコックの監督術

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今なお語りつがれる伝説的な「小型機の襲来」シーン



 逆に、アイディアをうまく組み込むことで伝説化したシーンもある。その最たるものが「小型飛行機の襲来」。この場面の衝撃たるや本当に計り知れないものがある。


 そこはだだっ広い平原を貫く一本道。この真ん中にバスで降り立った主人公は、そこから音楽もセリフもないまま数分間のサイレント状態を経験する。何も起こらない。起こりようがない。そのはずなのに無音状態は確実な重みとなって、悪い予感を募らせていく。そして開始6分を超えた頃、これまで遠方に豆粒ほどの大きさで飛んでいた飛行機が、耳をつんざく大音響を発しながら、主人公めがけて襲いかかってくるのだ。


 この一連のシークエンスは、サイレントからトーキーへの変換期を経験したヒッチコックならではの究極の発想と言えるのだろう。ただし「あれを操縦するのは誰?」とか「どうして最後、トラックに突っ込んだ?」とか余計なことを考えてはいけない。だって、この場面をはじめ、ヒッチコック作品の魅力はまさに「理屈を超えたところ」にあるのだから。ヒッチコック流に言うとそれは「不条理のファンタジー」といったところだろうか。



『北北西に進路を取れ』(c)2009 Turner Entertainment Co. and Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 ちなみに、書籍「映画術」ではトリュフォーがこう口にする箇所がある。


 「すべてが見事に計画されたデタラメとでも言ったらいいでしょうか。不条理(ばかばかしさ)に基づく荒唐無稽なファンタジーこそあなたの映画作りの処方箋です」


 これに対する巨匠の一言もまた印象的だ。


 「その不条理(ばかばかしさ)とわたしは真剣に、厳粛に遊んでいるというわけだ!」



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