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『ドゥ・ザ・ライト・シング』“LOVE”&“HATE”の意味を問い続けるスパイク・リー監督作

(C) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

『ドゥ・ザ・ライト・シング』“LOVE”&“HATE”の意味を問い続けるスパイク・リー監督作


“LOVE”“HATE”リングの意味



 冒頭に流れるパブリック・エネミーの曲、「ファイト・ザ・パワー」は、このバンドの中心人物、チャック・Dとリーとの交流関係によって生まれた。公開当時、強烈な印象を残し、80年代のラップ・ミュージックを代表するナンバーとなった。「エルヴィスはヒーローかもしれないが、俺たちにはどうでもいいヤツさ」。そんな過激で挑発的な歌詞が歌われ、アフリカ系アメリカ人の主張が打ち出される。


 リズムやビートを強調した音楽を使い、カラフルな色彩を多用して、ニューヨークの下町で生きる人々のリズミカルな日常生活が描写されるため、最初は強烈な部分に目がいくが、よくよく見ると、その軽妙なユーモアを通じて人間の温かい感情も伝わる。自分が作ったピザを食べて育った子供たちが大きくなっていくことに誇りを感じるサル。ビールづけの“市長”(メイヤー)”といつもへらず口をたたきあうマザー・シスターとの人間くさい会話。自らを“ラブ・ダディ”と呼び、音楽を通じて大きな愛を伝えるDJ(演じるのはサミュエル・L・ジャクソン)。



(C) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.


 心の奥にある差別意識や憎しみがちょっとしたきっかけで爆発する瞬間をとらえつつ、一方では人々の愛や人情があふれる場面も用意される。


 右手に“LOVE”、左手に“HATE”のリングをつけたラジオ・ラヒームは言う――「右と左はいつも戦っている。左が原因で、人はいつも殺しあうが、右が人の魂にふれ、やがてKO勝ちする」。


 この印象的なセリフはロバート・ミッチャム主演、チャールズ・ロートン監督のカルト映画『狩人の夜』(55)からの引用である。こちらの作品では凶悪犯に扮したミッチャムが、指に“LOVE”と“HATE”のタトゥーを入れていて、同じようなセリフを語る。スパイク・リーはこの映画が大好きで、ミッチャムにヒントを得た場面を作り上げた。そして、今年のオスカー受賞式には“LOVE”&“HATE”のリングで現れたというわけだ。


 新作『ブラック・クランズマン』の方は70年代のコロラド州コロラドスプリングスで初の黒人警官となったロン・ストールワースの革新的な手記の映画化だ。白人の秘密結社、KKKの捜査をするアフリカ系アメリカ人の警官の視点で、アメリカの人種問題があぶりだされ、彼と一緒に捜査をすすめる相棒をユダヤ人にすることで、マイノリティたちの差別の問題が追求される。


 そして、17年にシャーロットヴィルで起きた人種間の暴動やトランプ大統領の映像も使われ、その犠牲者を悼む場面も出てくる。事件現場には“ノー・プレイス・フォー・ヘイト(憎しみからは何も生まれない)”という文字が刻み込まれていたが、これこそ、今の時代に監督が送ったメッセージではないだろうか。


 初期の代表作『ドゥ・ザ・ライト・シング』から『ブラック・クランズマン』へ。30年間に渡って人種問題にこだわり続け、愛と憎しみの間にあるものを描くスパイク・リー。彼の作品を通じて、他の監督たちが語らなかったアメリカの歴史が見える。




文:大森さわこ 映画ジャーナリスト・評論家

80年代から映画に関する文章の執筆・取材・翻訳を手がける。17年より英国キングストン大学ケン・ラッセル学会のメンバーとなる。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)、「映画・眠れぬ夜のために」(フィルムアート社)他。訳書はウディ・アレンをめぐる2冊の本、「ウディ・オン・アレン」、「ウディ」(共にキネマ旬報社)他。新刊は、東京のミニシアター30年間におよぶ歴史を追ったノンフィクション「ミニシアター再訪」(アルテス・パブリッシング)。芸術新聞社・HPでの連載を完全リライトした内容となる。「ドゥ・ザ・ライト・シング」が日比谷シャンテ・シネで公開された時のレポートは こちらから。




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作品情報を見る




『ドゥ・ザ・ライト・シング』

Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

※2019年4月の情報です。

(C) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

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