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『アイ,ロボット』「ロボット工学三原則」に正面から取り組んだ ※注!ネタバレ含みます。

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『アイ,ロボット』「ロボット工学三原則」に正面から取り組んだ ※注!ネタバレ含みます。

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ヴィキの描写



 しかし、そのヴィキをどうやって概念化するかは、なかなか決まらなかった。そこでプロダクション・デザイナーのパトリック・タトポロスは、「キューブの中に人の顔が浮かぶホログラフィとして、社内の空中どこにでも出現し、人間とコミュニケーションを取る」というアイデアを出す。このキューブは、フォトモザイク風に多くの画像から形成されている。これを表現するために、デジタルドメインは自社が所有する映画のフレームを数千点選び出し、空中にプロジェクションされるイメージを作り出した。


 またヴィキの本体は、USロボティクス社ビルの中心を貫く長い円柱の下に、球状の陽電子頭脳がぶら下がった形(*9)にデザインされた。これは箱型の筐体が整然と並ぶ、一般的なスーパーコンピューターのイメージとは異なっている。公開当時は、手塚治虫の「火の鳥・未来篇」(67~68)に登場した「電子頭脳ハレルヤ」と「聖母機械ダニューバー」を連想させる、レトロフューチャー的印象すら受けた。



*9 現実世界において、最近開発が盛んに行われている量子ゲート方式の量子コンピューターは、ヴィキのデザインに近付いてきているようにも思われる。これは、わずかなノイズで量子ビットが壊れてしまうことから、チップを絶対零度近くに維持するための冷却装置や、様々な干渉を避けるための機構、複雑で厖大な配線などの関係で、昔のSF映画のような不思議な形状になるのだ。



『アイ,ロボット』から得られるもの



 この映画は、AIやロボットが「三原則」を無視してしまうことの恐怖を描いている。しかし現実世界においては、そもそも「ロボット工学三原則」なんてものは存在しないし、これを実際にAIへ教え込むことは非常に難しい。


 SF作家の瀬名秀明は「瀬名秀明ロボット学論集」の中で、「アシモフの三原則は現実の工学者からどのように見られてきたのだろうか。工学ではアイデアをシステムとして機能させる『実装』の精神が重視されるが、それに基づいて三原則を検討すると、やはりまず第一条の『人間』や『危害』をどのように定義するかが非常に難しい。そして第二条、第三条における『~の限り』という文面にも人工知能(AI)の困難な課題が含まれている。アシモフの三原則がこれまで工学分野で真剣な議論の対象とならなかったのは、実装への道がまるで見えなかったからだろう」と述べている。


 しかし、このことをなおざりにしたままAIやロボットの開発を進めていくと、どこかでヴィキのような存在が生まれないとも限らない。AIに倫理観を持たせるというのは、極めて難問だが必要なことなのだ。




文: 大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル 第1集』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校などで非常勤講師。




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『アイ,ロボット』

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