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SFエンターテインメント大作『エリジウム』が痛烈に描き出す、現実世界が抱える問題とは

SFエンターテインメント大作『エリジウム』が痛烈に描き出す、現実世界が抱える問題とは


社会問題とサイエンス・フィクション



 『第9地区』『エリジウム』と、一貫して社会問題を提起する監督が次いで放ったのは、AI(人工知能)によるシンギュラリティを描いた『チャッピー』(15)だ。本作では、“見た目”や“外見”といった表面的な価値観は無意味だとするテーマを表出している。見た目を理由とした偏見や差別という意味では『第9地区』に通ずる部分があるし、『エリジウム』が描いた経済格差というテーマも『チャッピー』には含まれている。


 南アフリカ共和国の犯罪率増加を抑止するべく開発された人型ドロイド“スカウト”は、同国の治安維持に対して大きな成果を生み出していた。命令通りに働くスカウトは単なる人型の機械だったが、開発者の青年は極秘に人工知能システムを開発。ただ命令に従うだけではない、自らの思考を持つ自律型ドロイドを誕生させようとする。一度は社長に却下されたが、地元ギャングによる介入などさまざまなトラブルが重ね合わさり、最終的に青年は自律型ドロイド“チャッピー”を生み出すに至る。これも余談だが、『エリジウム』の作中には、スカウトに酷似した治安維持ドロイドが登場しており、この頃から監督は、既に『チャッピー』の構想を練っていたのかもしれない。



 さて、生まれたばかりのチャッピーは、ギャングの一味から言葉や振舞いを学んでいくことに。その中で、チャッピーの母親的存在となったヨーランディが授けたのは、「見た目はあまり関係ない。大切なのは中身」との言葉だった。見た目が違うだけで差別を受ける現代の世の中を、痛烈に批判したメッセージがうかがえるはずだ。


 また『チャッピー』には“永遠の命”という人類史における禁断の反倫理的テーマが内包されている。この不死というテーマ設定は、『エリジウム』でも取り上げられている。先の項でも言及したエリジウムの高度医療技術だが、これは多岐の伝染病だけでなく、人体の外的損傷まで見事に完治する、夢のテクノロジーだ。エリジウムに住む上級国民はどんな傷病も克服した半ば不老不死の生活を謳歌している。




 しかし、地球の人々は、この近未来テクノロジーの恩恵を受けることができない。本来なら世界に平等に行きわたるべきである医療制度が独占されている状況だ。これは現在の世界もまったく同じような状況に陥っている。この映画では、途上国と先進国とにおける医療の技術格差を皮肉すると同時に、医療を軸とする世界の二分化に警告を発しているのだ。


 監督ニール・ブロムカンプは、サイエンス・フィクションというキャンバスに、実社会の混沌をうっすらと、時にはしっかりと塗り込んでいる。その仕事ぶりは非常に綿密で、卓越している。さらにすごいのは、この社会風刺を織り込んだ作品群を徹底した娯楽映画として、見事に完成させているところだろう。一見すると単純な娯楽映画だが、深く考察すると実社会の問題提起が浮き彫りとなるのだ。




 人種差別や白人偏重といった現実世界の実状を真摯に反映した作品は、近年の賞レースを賑わせているが、その中で監督ニール・ブロムカンプは、サイエンス・フィクションという題材で、真摯に挑み続けているのだ。『エリジウム』は間違いなく現在の国際社会に対する警鐘として機能している。




文: Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。



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『エリジウム』

ブルーレイ 価格:¥4,743+税  発売中

発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(c) 2013 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

※ジャケットのデザインは都合により変更される場合がございます。

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