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SFエンターテインメント大作『エリジウム』が痛烈に描き出す、現実世界が抱える問題とは

(c) 2013 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

SFエンターテインメント大作『エリジウム』が痛烈に描き出す、現実世界が抱える問題とは

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『エリジウム』あらすじ

2154年、世界は完全に二分化されていた。ひと握りの富裕層が上空に浮かぶスペースコロニー「エリジウム」で極上の人生を謳歌する一方、人類の大多数は荒廃しきった地球で貧しい生活を強いられていた。スラムに暮らすマックス(マット・デイモン)は、ある日不慮の事故に遭い余命5日と宣告されてしまう。生き残るには医療ポッドのあるエリジウムに進入するしかない。レジスタンス軍に参加し、決死の覚悟でエリジウムへ挑む彼の前に、冷酷非情な女防衛長官デラコート(ジョディ・フォスター)が立ちはだかる…!


Index


監督の“経験”が描く、実社会の闇



 俊英ニール・ブロムカンプのデビューは衝撃とともに、突然やってきた。世界各国で高く評価された異色作『第9地区』(09)は、この年のアカデミー賞をはじめ、様々な映画賞、映画祭を総ナメにし、異例の喝采を浴びた。短編フィルムで実績を積んだニール・ブロムカンプは、自身の商業用長編デビューとなった『第9地区』に、自身のこれまでの“経験”のすべてをつぎ込んだ。


 映像作家としての経験はもちろんのことだが、その経験の中には現実世界における差別の実態が投影されている。映画は、エビ型の異星人が乗る超巨大円盤が、南アフリカ共和国に飛来するところから始まる。物語の舞台となる南アフリカ共和国は、監督ニール・ブロムカンプの出身地であり、この地元での“経験”こそが、この先も続く映画人生に大きな影響を与えている。


『第9地区』予告


 さて、『第9地区』の物語はこうだ。突如として現われたエビ型異星人に街は騒然となる。次第に市民はこの異星人に対して、底知れぬ嫌悪感を抱きだすのだ。南アフリカ共和国政府は、異星人専用の隔離居住地区を設けるのだが、この劣悪を極める地域は、次第に人間のギャングが入り乱れる巣窟と化してしまう。街の中には“異星人おことわり”の看板が所狭しと立ち並び、人間と異星人との差別世界を辛辣に映し出している。この差別描写こそが、監督の人生の中での“経験”から来るものである。監督の映画は、南アフリカ共和国にかつてあった人種隔離政策、俗にいう“アパルトヘイト”の一端を徹底して反映させているのだ。



『エリジウム』(c) 2013 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.


 この格差、差別といった社会描写、ならびにアパルトヘイトの反映という部分は、同監督による『エリジウム』(13)にも根幹のテーマとして設定されている。人間と異星人との差別を描いた前作に変わり、今作『エリジウム』では貧困層と富裕層という実社会の格差をさらに痛烈に描き出し、社会風刺の才能をさらに昇華させている。『エリジウム』が描く、人間同士の理不尽な格差は、決してフィクションではないのだ。



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