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『炎のランナー』これぞスポーツ映画の傑作!“走ること”に全てを賭けた生き様
「情報求む!」の広告も。全ては50年前の記憶の編纂から始まった
ところで、『炎のランナー』には原作にあたるものがない。すべてのきっかけは、伝説的なプロデューサー、デヴィッド・パットナムがオリンピックに関する本の中に、かの「牧師ランナー」にまつわる小さな記述を見つけたことだった。
70年代の終わり、当時のイギリス映画はクールでエレガントな作風が好まれる風潮にあったという。パットナムはその風潮をぶち壊し、エネルギッシュで、登場人物の生き様があふれ出すような題材を求めていた。そんな中で出会ったのがこのランナー・エリック・リデルの記述だ。なんとエモーショナルで、揺るぎない信念に満ちたエピソードなのだろう。パットナムはすぐさま方々からエリック・リデルに関する資料をかき集め、映画化の可能性を真剣に検討し始める。
とはいえ、50年以上も前の出来事である。関連資料を集めるのと並行して、パリ大会やその出場者たちについてよく知る関係者にもご協力願わねばなるまい。彼と脚本家のコリン・ウェランドは雑誌や新聞に「情報求む!」との広告を出し、より詳細な生の情報を集めようと奮闘を続けた。全てはこうやって歴史や記憶を掘り出すところからスタートし、なんとか集まった材料をもとに「二人の金メダリスト」に特化した物語が構築されていったのである。
『炎のランナー』(C)2015 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
一方、オーディション時には「運動着をご持参ください」との通達を受けた若手俳優らが続々と集結することとなる。現場では演技だけでなく、当然ながら身体能力のテストにも重点が置かれた。参加者たちは次々とレースに参加させられ、ゴール前で疲れ切って「もう限界!」と白旗を上げる者がいたり、走るスピードは速いのにフォームがてんで話にならない者もいたりと、キャスティング作業はかなりの難航を極めたという。
『炎のランナー』波打ち際を疾走するシーン
だが、そうやって厳選されただけあって、名もなき俳優で占められた本作では誰もが実に素晴らしいパフォーマンスを見せた。とりわけ代表選手たちが一団となって波打ち際を疾走するシーンの美しさは格別。1920年代の昔話を最新鋭のシンセサイザー音楽で彩るという作曲家ヴァンゲリスの離れ業も相まって、今や映画史に名を残すほど伝説的なものとなった。