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『第9地区』完全CGでないから実現できた!?“エビ型”宇宙人のリアルな感情表現の秘密とは?
完全CGではない宇宙人。演じているのは誰?
デジタルとアナログのバランス感覚は、宇宙人の描き方においても追究された。その最大の成果となったのが第二の主人公とも言える宇宙人“クリストファー”だ。実を言うと彼は完全CGで描かれたキャラではない。現場で実際に彼を演じた俳優がいる。それがブロムカンプとは旧知の間柄の俳優、ジェイソン・コープである。
彼は本作のベースとなった短編映画でもエイリアンとして出演しているが、本作では彼が撮影現場でリアルな演技を体現してみせることによって、主人公(シャールト・コプリー)と宇宙人との間に生まれる即興性の高い絶妙な掛け合いを引き出していった。つまり、素材はナマモノだったというわけだ。
ここからが特殊技術の出番。編集作業ではまず映像に映っているコープの姿を一旦画面から完全に消す。そして彼の実写の動きをトレースしたものをCGのエイリアンのプログラムに適用させて映像への合成作業(ロトメーションと呼ぶ)を行っていく。こうすることで、感情を伝えるのに欠かせない「目」の部分を含めたジェイソンのリアルな動きを再現していったのだ。これはスタジオで専用機材やブルースクリーンに囲まれながら行うモーション・キャプチャーとは違う、極めて特殊な手法だという。
「一体、このジェイソン・コープってどんな素顔なの?」と知りたくなった人は、わざわざネット検索などする必要はない。本作『第9地区』で彼は、エイリアンのみならず、ジャーナリスト役としても素顔をさらして、もっともらしいコメントを口にしているのだから。本作の大ヒットを受けて主演のシャールト・コプリーは出演オファーの相次ぐ売れっ子となり、もう一方のコープはあれほど世界に衝撃を与えたにも関わらずあまり名前が浸透しているとは言えないが、しかし本作の成功の陰には彼の「素顔が見えない演技」による貢献があったことを忘れてはならないだろう。