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『トゥルー・ロマンス』元ネタの宝庫!タランティーノ初期の傑作脚本を考察する

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『トゥルー・ロマンス』元ネタの宝庫!タランティーノ初期の傑作脚本を考察する

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元ネタその2:テレンス・マリック監督『地獄の逃避行』



 『トゥルー・ロマンス』に影響を与えた映画の筆頭は、伝説の巨匠監督テレンス・マリックのデビュー作『地獄の逃避行』(1973)だろう。1958年に起きた連続殺人「スタークウェザー=ヒューゲート事件」をベースにした犯罪ロードムービーである。


 「スタークウェザー=ヒューゲート事件」では、ネブラスカ州の19歳の青年チャールズ・スタークウェザーと14歳の恋人カリル・アン・ヒューゲートが、ヒューゲートの家族を含む11人を殺して逃亡生活を送り、スタークウェザーが死刑、ヒューゲットが終身刑(後に釈放)となった。まだうら若いカップルの無軌道な凶行に着想を得たテレンス・マリックは、この悲惨な事件からまるで詩のように美しい青春ロードムービーを生み出してしまった。


 『地獄の逃避行』はタランティーノがお気に入りに挙げる作品だが、トニー・スコット監督もまた『地獄の逃避行』から『トゥルー・ロマンス』の着想を得ていた。特に顕著なのがハンス・ジマーに依頼した音楽で、マリンバによる牧歌的なメロディが印象的なテーマ曲「You’re So Cool」は、『地獄の逃避行』で使用されたカール・オルフとグニルト・ケートマンによる教育音楽「ミュジカ・ポエティカ」に敢えて似せて作られているのだ。作曲の名義はジマーだが、正直似ているどころかソックリだと言っていい。


 カール・オルフという作曲家は荘厳かつ勇壮なカンタータ「カルミナ・ブラーナ」で知られ、同曲は今でも史劇スペクタクル系の予告編BGMに使われることが多い。一部でも耳にすれば誰だって聞き覚えがあるはずの超有名曲だ。一方『地獄の逃避行』で使われた「ミュジカ・ポエティカ」は、素朴でシンプルなアンサンブルを基調とした「カルミナ・ブラーナ」とは真逆の音楽。構成がシンプルなのも当然で、そもそもオルフとケートマンが子供に演奏の喜びを知ってもらうために作った稚気を感じさせる練習曲群なのである。


 マリックは『地獄の逃避行』で、次々と殺人を繰り返すカップルの物語をこの「ミュジカ・ポエティカ」で包み込むことによって、陰惨なはずの現実の事件を、カップルの主観が生み出した一種のファンタジーとして描き出してみせた。おそらくスコットは、『トゥルー・ロマンス』のクラレンスとアラバマの純粋さを現わすために、マリックが『地獄の逃避行』で生み出した効果を借りようと思ったのだろう。


 劇中で何度も「You’re So Cool」が流れることで、殺人も麻薬売買も“ロマンチック”だとすら感じているこの暴走カップルの、無邪気でピュアな面が前面に浮き上がる。汚いものを隠している、と言えばその通りなのだが、冷静に考えればロクデナシな男女が、とてつもなく魅力的に思えてくる“映画と音楽の魔法”を全面的に支持したい。



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