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『トゥルー・ロマンス』元ネタの宝庫!タランティーノ初期の傑作脚本を考察する
『トゥルー・ロマンス』あらすじ
麻薬が入ったマフィアのスーツケースを手にしたクラレンス(クリスチャン・スレーター)とアラバマ(パトリシア・アークエット)は、愛の逃避行を重ねながら危険な賭けに出る。ロサンゼルスに向かったふたりはそこで麻薬を売り、新生活を始めるつもりだった。だが、マフィアと警察の両方に追われる羽目に…。
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元ネタその1:エルモア・レナードの犯罪小説
『トゥルー・ロマンス』の脚本を書いたクエンティン・タランティーノが、多くの作品で過去の映画や小説を元ネタにしていることは有名な話。パクリと呼ぶかオマージュと呼ぶかは議論の分かれるところだが、どんな元ネタもタランティーノの流儀で捻じ伏せられ、結果的にオリジナルな“タランティーノ作品”に仕上がってしまうのだから恐るべき才能である。
タランティーノの監督デビュー作『レザボア・ドッグス』(1992)がリンゴ・ラム監督、チョウ・ユンファ主演の香港ノワール『友は風の彼方に』(1987)を下敷きしていることは本人も認めているし、『キル・ビル』二部作(2003、2004)はカンフー映画や任侠映画のパロディが満載。西部劇『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)なんてマカロニウエスタンの人気キャラ“ジャンゴ”の黒人バージョンで、しかも邦題まで『許されざる者』(1992)をもじっている。
では、なぜタランティーノの分身として書かれた『トゥルー・ロマンス』の主人公クラレンスはデトロイト出身なのか? タランティーノはアメリカ南部のテネシー州に生まれ8歳の時に引っ越したロサンゼルスで育っている。北部の街デトロイトとは関わりのない人生だったはずなのに。
その答えはタランティーノが敬愛する犯罪小説の大家エルモア・レナードにある。成功したタランティーノはレナードの小説の映画化権をいくつも購入し、レナードの「ラム・パンチ」を原作に『ジャッキー・ブラウン』(1997)を監督している。クセのある犯罪者たちが闊歩する『パルプ・フィクション』(1994)の世界観もレナードの影響が大きい。
レナードの犯罪小説は、大半が同じ世界観を共有している。例えば『ジャッキー・ブラウン』でロバート・デ・ニーロとサミュエル・L・ジャクソンが演じた犯罪者コンビは別作品『スイッチ』(2013年に『ライフ・オブ・クライム』として映画化)にも登場するし、『ジャッキー・ブラウン』でマイケル・キートンが演じたFBI捜査官はスティーブン・ソダーバーグが監督した『アウト・オブ・サイト』にもチョイ役で登場。これまた律儀にマイケル・キートンが演じているのが面白い。
タランティーノの作品も裏設定で相互に繋がっていて、『トゥルー・ロマンス』のヒロイン、アラバマの名前が『レザボア・ドッグス』に出て来たりする。この“タランティーノ・ユニバース”もレナードの小説を手本にしている可能性が高い。そしてレナードが好んで小説の舞台に選ぶのがデトロイトとフロリダなのである。デトロイトはクラレンスが生まれ育った街、フロリダがアラバマの故郷に設定されているのも、明らかに尊敬するレナードへの目配せだろう。