グレンとキャサリンの胸中で共鳴し合う“正しい資質”
だからこそ、私たちは『ドリーム』で7人の宇宙飛行士たちの中でもリーダー格のジョン・グレンがキャサリン・ジョンソンと言葉を交わすくだりに、まるで両作を通じてのハイライトシーンでもあるかのような心の震えを感じるのだろう。
蝶ネクタイが印象的なグレンは、本作に何度か顔を覗かせるが、NASAの施設を訪れる際にもアフリカ系アメリカ人たちのチームに歩み寄って積極的に握手を求めるなど、人種や性別といった色眼鏡で人を選別することのない“開かれた人物”として描かれている。
そんなグレンはもちろん、ヒロインの一人であるキャサリン・ジョンソンの優秀さもすぐさま見抜き、厚い信頼を寄せるようになる。こうして2度ほどの邂逅を経て張られた伏線がクライマックス付近になって“命綱を預ける”のと同じくらい重要な関係性となって見事に回収されていくわけである。『ライトスタッフ』を援用するのであれば、少なくともこのくだりでジョン・グレンは、キャサリンの中に確かな“ライトスタッフ(正しい資質)”を認め、その資質にこそ自らの命を委ねたのだろう。
『ドリーム』(c)2016Twentieth Century Fox
この“正しい資質”という言葉の明確な意味は映画『ライトスタッフ』の中でも具体的には明かされていないが、それは要するに、互いに有する者のみが敏感に反応し合う共鳴装置のようなものではないだろうか。それがわかっているからこそ、キャサリンもまた心を共鳴させ、グレンのために全力で職務を遂行するのである。
“近くて遠い存在”だった二人が、人種、性別、立場の違いを超えて、いま“個人”としてこの瞬間に繋がりあう。このダイナミズムは『ドリーム』が掲げる人権や平等といったテーマ性から考えても、また『ライトスタッフ』にも通じる“資質を持った一人一人が主人公”というメッセージを踏襲する意味でも、ロケット打ち上げのカタルシスにも増して非常に大きな感動を与えてくれる。そうやって物語の余韻に浸っているところで耳元から沁み入ってくる、ファレル・ウィリアムスの極上メロディ。すべてが絶妙に調和したかのようなこの心地よさ……これほど情熱と希望に満ち、なおかつ至福を感じるひとときが他にあるだろうか。
かくも我々は、『ライトスタッフ』と『ドリーム』という二作品を通じて、宇宙開発にまつわる知的興奮のみならず、心の中に力強いエネルギーが蓄積されていくのをひしひしと感じる。こういった<正しい資質>を有した登場人物たちのひたむきな生き方が、我々の進むべき道へ邁進する勇気を与えてくれるのは間違いないだろう。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
配給:20世紀FOX映画
(c)2016Twentieth Century Fox
※2017年10月記事掲載時の情報です。