80年代の傑作『ライトスタッフ』と併せてみるべき理由とは!?『ドリーム』

80年代の傑作『ライトスタッフ』と併せてみるべき理由とは!?『ドリーム』

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事実に根ざした宇宙映画『ドリーム』がもたらしたもの



 古今東西、様々なタイプの映画はあるものの、「宇宙映画」というジャンルにはその言葉の響きだけで、すでに壮大なロマンを感じさせる力がある。ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』以降、実に多くの映画作家たちが宇宙を描き続けてきたのも、夜空を見上げるとそこにはいつでも無限のキャンバスが広がっているからだろう。だが、これらの“宇宙”がいわゆるSFの舞台として描かれることはあっても、『ドリーム』のような“事実に根ざした宇宙映画”として描かれるケースは意外と少ないことに気づかされる。


 代表的なところでいっても、83年に公開された宇宙映画の金字塔『ライトスタッフ』や、宇宙飛行士たちが陥った未曾有のトラブルを描く『アポロ13』(1995年)などしか思い当たらない。ロシアに目を向けると、かの人類最初の宇宙飛行士に焦点をあてた劇映画『ガガーリン』、さらにオーストラリアではアポロ11号の月面着陸の際に現地の天文台が大きな役割を果たした逸話を描く『月のひつじ』なる映画も製作された。その他には貴重な記録映像をベースにしたドキュメンタリー映画がほとんどである(一方、TVシリーズでは「フロム・ジ・アース/人類、月に立つ」などの名作ドラマも有名だ)。ただし、今後は『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが再びタッグを組む新作”First Man”(2018年公開予定/ニール・アームストロングの人生を描く)など、徐々に“事実に根ざした宇宙映画”への注目度も増していきそうだ。




 やや話が逸れたが、本題は『ドリーム』である。60年代のNASAで奮闘する3人のアフリカ系アメリカ人をヒロインに描く本作は、“誰もが知る”マーキュリー計画を、“誰も知らなかった”視点と角度で描き切った点において極めて画期的と言える。人種と性別の壁が行く手を阻んでいたこの時代に、アフリカ系の女性たちの“ヒューマン・コンピューター=計算係”としての尽力が宇宙開発に大きな貢献をもたらしたという事実は、多くの人の心を震わせてやまない。努力と才能と運があれば誰もが壁を突き破って高みを目指すことができるというテーマ自体、まさしく“アメリカン・ドリーム”の根幹を成すものとして受け止めることができるだろう。


 と、この一本だけでも様々な要素に満ちた傑作ヒューマンドラマではあるのは承知の上で、あえてここで一つご提案したいのが、掲題のように「『ライトスタッフ』と併せて観る」という試みである。


時代背景を同じくする宇宙映画の傑作『ライトスタッフ』



 “マーキュリー計画”に代表される宇宙開発時代を描いた一大叙事詩『ライトスタッフ』は、完全版だと優に上映時間が190分を超える。1日のうちのこれだけの時間をDVD鑑賞に充てるのは大変なことだが、もしもあなたが『ドリーム』を鑑賞した直後であるならば、これはまさに絶好のタイミングである。これらを見終わった後、まるで両作が数十年の時を経てようやく完結した壮大な2部作だったのではないかと感じるほどの充実感を得ることができるはずだ。


 それはなぜか。まず押さえておきたいのは、『ライトスタッフ』と『ドリーム』は描かれる年代設定がまるっきり重なるという点である。ただし、前者があくまで表舞台で華やかな脚光を浴びる<アメリカのヒーロー=7人の宇宙飛行士たち>をメインに描くのに対して、『ドリーム』は同じNASAであっても施設的には遠く離れたところで働くアフリカ系アメリカ人女性3人がメインとなる。




 私たちは今や、あらゆる出来事において“語られるべき視点”がひとつだけでは足りないことを知っている。歴史が大きく動く時、そこには数限りないディテールのうごめきがあるはずで、視点や語り口は複数あってしかるべきだ。そういった意味でも、これら両作に触れておくと“近くて遠いところ”に存在した二つの視点を、まるで二つのカメラを駆使するかのように、NASAの宇宙開発を広く把握することができるようになり、奥行きもグッと広がる。施設内の角を曲がればお互いの登場人物の動線がひょっこり交錯しそうなこの“近さ”が、なんとも言えない臨場感をもたらしてくれることだろう。


脚光のあたる場所のみならず、“近くて遠い”ヒーローを描く



 また、我々が『ライトスタッフ』について想起する時、そこには『ドリーム』のヒロインたちと同じく“近くて遠いところ”に立つ人物が真っ先に胸に浮かんでくるはずだ。サム・シェパード演じる空軍パイロット、チャック・イェーガーがその人である。7人の宇宙飛行士にも増して、崇高な存在感を放つ彼は、誰よりも優秀かつ“ライトスタッフ(正しい資質)”を持ちながらも“大学を出ていない”ことがネックとなり選抜候補に入ることができなかった。しかしそれでも本作は、今日も一人孤独にジェット・エンジンのテスト飛行に挑む男の姿にカメラを向ける。宇宙飛行士たちが表舞台で脚光をあびる中、砂埃にまみれて自分の道をただひたすら歩み続けるイェーガーを、カメラは「ここにもヒーローあり」と言わんばかりにかなりの時間を割いて描き続けるのである。


 筆者自身、初めて『ライトスタッフ』を観たときには、このイェーガーという登場人物の存在に、西部劇にも似たアウトサイダー的な主人公の姿を重ね、いかにもアメリカ人が好きそうな構成だなと感じたものである。だが、『ドリーム』を観た後に改めてこの映画を再訪すると、どこか映画としての視点が通底しているように思えてならなかった。この映画はすでに83年の時点で、表舞台で眩いスポットライトを浴びる者だけが歴史の主人公ではないことを、何よりも声高に教えてくれていたのである。歴史的偉業の陰には日々絶え間なく孤独な奮闘を繰り広げている人たちがいて、彼らもまた語られるべき視点であり、重要な主人公なのだ。その意味では、『ライトスタッフ』と『ドリーム』はどちらも、究極的には自らの道をたゆまず歩み続ける“個人”の物語と言えるのかもしれないし、もっと言うと、その個人が有する<正しい資質>についての映画だったのかもしれない。




グレンとキャサリンの胸中で共鳴し合う“正しい資質”



 だからこそ、私たちは『ドリーム』で7人の宇宙飛行士たちの中でもリーダー格のジョン・グレンがキャサリン・ジョンソンと言葉を交わすくだりに、まるで両作を通じてのハイライトシーンでもあるかのような心の震えを感じるのだろう。


 蝶ネクタイが印象的なグレンは、本作に何度か顔を覗かせるが、NASAの施設を訪れる際にもアフリカ系アメリカ人たちのチームに歩み寄って積極的に握手を求めるなど、人種や性別といった色眼鏡で人を選別することのない“開かれた人物”として描かれている。


 そんなグレンはもちろん、ヒロインの一人であるキャサリン・ジョンソンの優秀さもすぐさま見抜き、厚い信頼を寄せるようになる。こうして2度ほどの邂逅を経て張られた伏線がクライマックス付近になって“命綱を預ける”のと同じくらい重要な関係性となって見事に回収されていくわけである。『ライトスタッフ』を援用するのであれば、少なくともこのくだりでジョン・グレンは、キャサリンの中に確かな“ライトスタッフ(正しい資質)”を認め、その資質にこそ自らの命を委ねたのだろう。




 この“正しい資質”という言葉の明確な意味は映画『ライトスタッフ』の中でも具体的には明かされていないが、それは要するに、互いに有する者のみが敏感に反応し合う共鳴装置のようなものではないだろうか。それがわかっているからこそ、キャサリンもまた心を共鳴させ、グレンのために全力で職務を遂行するのである。


 “近くて遠い存在”だった二人が、人種、性別、立場の違いを超えて、いま“個人”としてこの瞬間に繋がりあう。このダイナミズムは『ドリーム』が掲げる人権や平等といったテーマ性から考えても、また『ライトスタッフ』にも通じる“資質を持った一人一人が主人公”というメッセージを踏襲する意味でも、ロケット打ち上げのカタルシスにも増して非常に大きな感動を与えてくれる。そうやって物語の余韻に浸っているところで耳元から沁み入ってくる、ファレル・ウィリアムスの極上メロディ。すべてが絶妙に調和したかのようなこの心地よさ……これほど情熱と希望に満ち、なおかつ至福を感じるひとときが他にあるだろうか。


 かくも我々は、『ライトスタッフ』と『ドリーム』という二作品を通じて、宇宙開発にまつわる知的興奮のみならず、心の中に力強いエネルギーが蓄積されていくのをひしひしと感じる。こういった<正しい資質>を有した登場人物たちのひたむきな生き方が、我々の進むべき道へ邁進する勇気を与えてくれるのは間違いないだろう。


作品情報を見る


9月29日(金)TOHOシネマズシャンテ他、勇気と感動のロードショー!

配給:20世紀FOX映画

公式サイト: http://www.foxmovies-jp.com/dreammovie/

ⓒ2016Twentieth Century Fox

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