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『アバウト・ア・ボーイ』年の差を超えて育まれる思いがけない化学反応。人気俳優と子役の名コンビ映画は、なぜこんなに面白いのか!?
2019.12.08
名子役×B.マーレイの名作『ヴィンセントが教えてくれたこと』
このように「子役と名優」の組み合わせは映画の“鉄板”とも言える。が、あまりに鉄板すぎてそれに頼りすぎる傾向も強く、玉石混合の中から傑作を見出すのは逆に困難な場合も多い。重要なのは名優と子役、どちらに比重が傾くこともなく、常に対等のバランスを放っていること。そして、撮影現場でもまた、映画を超えた関係性が構築され、二人の化学反応がしっかりと刻印されていること。このいずれをもクリアしている傑作としてご紹介したいのが、2014年の作品『ヴィンセントが教えてくれたこと』だ。
本作は幼い少年オリヴァー(ジェイデン・リーバハー)と、隣の家に住む孤独な老人ヴィンセント(ビル・マーレイ)が友情を育んでいく物語。といっても決して一筋縄にはいかないのがマーレイ出演作の常で、『ゴーストバスターズ』(84)で一世を風靡したこの名優は、60代になっても飄々とした感じで観客を煙に巻き続け、相手が子役でも一向に引けをとることがない。
『ヴィンセントが教えてくれたこと』予告
それどころか彼の役柄は、ベビーシッターとして少年の面倒をみることになっても従来の生活を一向に崩さず、平気な顔で競馬場やバーへと同伴させてしまう始末。だが少年はというと、この孤独な老人に多くのことを学び、少しずつ世の中への視野を広げていく。性格は全く異なる二人だが“親友どうし”となることで、互いの心の隙間を埋め合わせていくのだ。
この映画はまた、舞台裏のエピソードにも事欠かない。『アバウト・ア・ボーイ』のヒュー・グラントと同じく「子供嫌い」を公言するマーレイが、共演者のジェイデン君とだけは親密な絆を築きあげたというのは有名な話だ。何よりも心温まるのは、本作一番の見せ場となるシーンの撮影前にマーレイが「ちょっとおいで」とジェイデン君を部屋の隅っこに連れていき、呼吸を整えて精神を集中させる彼なりの瞑想法を伝授してくれたという。
「ちょっと変わってるけど、面白くて優しい人だった」とはジェイデン君の弁。このようにして徐々に積み上げられていった彼らの関係性が、画面にも見事に表出しているのが実に素晴らしい。
『アバウト・ア・ボーイ』(c)Photofest / Getty Images
『アバウト・ア・ボーイ』や『ヴィンセントが教えてくれたこと』、そのどちらにも共通するのは、大人と子供がいつしか「大人と大人」や「子供と子供」のように見えてくるところだ。さらには立場がまるっきり逆転して、子供の方が大人よりも気苦労の多い年長者のように思えてくることもあるだろう。
映画というメディアはフィクションながらも、その一方で嘘のつけないシロモノでもある。画面にはその関係性が、本人たちの思っている以上に濃密に表れ出るもの。両作の俳優たちはそのことをきちんと理解している。我々がウィルやマーカス、あるいはオリヴァーとヴィンセントの絆に、映画を超えた熱いものを感じるのは、きっとこうした要因が絶妙に働くからなのだろう。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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