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『キング・オブ・コメディ』キングと名乗ったコメディアンの、暴走する偏執的な妄想

(c)Photofest / Getty Images

『キング・オブ・コメディ』キングと名乗ったコメディアンの、暴走する偏執的な妄想

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スコセッシと即興演出



 パプキンに執拗に追われる人気コメディアン、ジェリー・ラングフォードを演じるのは、アメリカの大御所コメディアンであるジェリー・ルイスだ。1950年代から1970 年代にかけて、日本で「底抜けシリーズ」と呼ばれた一連のアメリカ映画で、歌って踊って分かりやすくデフォルメした大げさな演技で観客を笑わせていた彼は、本作では控えめで抑えた演技をしている。


 「ジェリーには台本が必要なかった」とスコセッシ監督がいう通り、この映画はジェリーと絡むシーンに即興が多いのだ。パプキンの才能をジェリーが褒めちぎりながら両手で顔を揉みくちゃに撫で回したり、別荘に押し入ったパプキンが広いリビングで手持ち無沙汰に動き回り、本当に欲しいものが何かわからない様子も即興だという。


 特に秀逸なのは、椅子に縛り付けられテープでミイラのようにグルグル巻きに拘束されている時のジェリーの顔だ。困惑と嫌悪で呆れ顔にも見える絶妙な表情は、狂気の沙汰であるはずのシーンが何か滑稽に見える。それは偏執的な妄想が肥大し始めたパプキンの行動が、いよいよ常軌を逸し始めたことが分かるシーンでもある。



『キング・オブ・コメディ』(c)Photofest / Getty Images


 そもそもスコセッシが即興を取り入れるようになったのは、映画を撮り始めた1970年代には、憧れていたハリウッド「黄金時代」の映画を作れる、撮影所システムが崩壊していたからだという。さらにマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンのように、自然な演技で実在しそうな人間がそのままスクリーンに描き出されているのを見て感動し、こういう映画を作りたいと思ったことも大きいという。


 また、自分の母親や父親を映画の一部に巻き込むようになったのは、憧れていた撮影ができないことへの折り合いをつけるためだったらしい。本作ではパプキンの母親役は、(声だけだが)スコセッシ監督の実の母親が出演している。デ・ニーロが部屋でコメディのネタをテープに録音するシーンで、録音ボタンを押したと同時に、食事ができたことを大声で叫んでいる。彼女は相手がアカデミー賞受賞者の名優ロバート・デ・ニーロであるにも関わらず、単にスコセッシの友達が部屋にいるだけだと思っていたようで、緊張などしていなかったらしい。その様子を見て、デ・ニーロはいつも笑いを堪えていたとのこと。


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