デニス・ホッパーを認識したのは7歳の時に見た『ブルーベルベット』だよ。ニック・エベリング監督『デニス・ホッパー/狂気の旅路』【Director’s Interview Vol.48】
『ラストムービー』が変えたもの
Q:難解過ぎて物議を醸した『ラストムービー』を14歳で観て理解できましたか?
ニック:たぶんできていたと思う。タイミングもよかった。自分にとってベストな時にデニスを知り、作品にも出会うことができたと思う。その時点で僕は役者をしていたわけだけど、デニスが演じていた主人公のカンザスも、映画の撮影現場で待ち時間を過ごし、周囲を観察している人物だった。そこで起きていることすべてを見つめている男、というコンセプトに、僕自身との繋がりを感じたんだ。
それに『ラストムービー』が思慮深く扱っているグローバリゼーションというテーマも興味深かった。ハリウッドの映画産業がほかの文化圏にやってきたら、現地にどんな影響を及ぼしてしまうのか。そんなテーマもすごく身近に感じられたよ。
それに僕にとってすごく重要だったのは、『ラストムービー』がそれまでに観たこともないような編集がなされていて、スティーヴン・スピルバーグが使うような伝統的な手法とはまったく違っていたこと。『ラストムービー』は、ジャン=リュック・ゴダールみたいな前衛的な映画作家を理解する入り口にもなってくれたんだ。
僕は『ラストムービー』のおかげで世界の見方が変わったし、自分の進みたい道が見つかった。誰かの真似をしたり、言われたことに従ったりするんじゃなくて、アーティストとしてやりたいことを追及すべきだと教えてくれたんだ。“普通”なんて概念にとらわれず、自分の心の声に従うことをね。だから僕は、デニスがあの映画を通じて僕に与えてくれたすべてにすごく感謝しているんだ。
Q:サティアを筆頭に多くの関係者のインタビューを撮影していますが、白黒映像にした理由はなんでしょうか?
ニック:いくつか理由はあるんだ。僕自身が、ドキュメンタリーの定番みたいなお決まりのインタビュー映像にうんざりしていたっていうのもある。僕が心底夢中になったドキュメンタリー映画ってそんなにたくさんはないんだけど、そのうちの一本がD・A・ペネベイカー監督がボブ・ディランを撮った『ドント・ルック・バック』(67)なんだ。僕が好きなタイプの、チャレンジングな映画だからね。
それに写真家としてのデニスも大好きだから、その影響もあると思う。70年代のレンズを使って撮影して、『イージー・ライダー』のようなクラシックな照明を使った。そうやってこの映画のビジュアルが決まっていったんだ。
この映画を普通のやり方で作るのはそぐわない。デニスについての映画を作る以上、なにか新しい方向性を探求すべきだ思っていたし、サティアという素晴らしい語り部が関わってくれたことで、ただの伝記ドキュメンタリー以上のものになったと思う。これはデニスという天才の物語というだけじゃなく、サティアの人生の映画もであるんだ。
Q:日本の写真家、森山大道もお好きだと伺いました。
ニック:森山大道は大好きだよ。彼の写真集も、深夜のレコードショップでたまたま見つけたんだ。彼は写真の世界におけるデニス・ホッパーやジョン・カサヴェテスのような存在だと思う。お金に縛られることなく、数ドルのカメラを使っても素晴らしいイメージを生み出せることを証明した。彼の「一番大切なのはビジョンを持つことで、あとは手近なツールを使えばいい」という言葉はずっと肝に銘じてる。創作においてとても重要な人だよ。