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【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

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日本中を元気にしたストリップ



 メジャー系洋画会社、20世紀フォックスも、シャンテの興行史に貴重な足跡を残している。英国のコメディ『フル・モンティ』(97)は97年12月13日から25週間の上映で、歴代5位の成績(興行収入1億3600万円)である。 


 "フル・モンティ"という聞き慣れない言葉は"すっぽんぽん"を意味する俗語。英国のさびれた町に住む6人のさえない男たちが、一夜限りのストリップショーで儲けようとする。バカバカしく、お下劣なコメディだが、工場の閉鎖で定職がなく、離婚後は息子の親権まで失いそうになっているダメ男(ロバート・カーライル)や過去のプライドを捨てきれない彼の元上司(トム・ウィルキンソン)など、失業者たちの悲哀感も出ていて、笑いつつもホロリとさせられる。 


 この作品についても松本室長が公開時の思い出を語り始めた。 


 「ちょうどバブルがはじけた後で、日本の元気がなかった時代に公開されました。『タイタニック』(97)と同じ年で、配給会社も同じです。そこで当時、『タイタニック』を上映している映画館で『フル・モンティ』の予告編をかけさせてほしいと申し出たら、フォックスの担当者はいやがって『冗談じゃない、あんなもの、かけちゃダメだ』と言われたものです。確かに下品なところはあるけれど、『タイタニック』のお客さんにぜひ見てほしいと女性のスタッフたちも言っていました。これまでとは違う新しいタイプの作品をシャンテのお客様に見てほしいという思いがありました」 


 フォックスの担当者は劇場のスタッフたちの熱意に負けて、『タイタニック』を上映する一部の映画館で予告編をかけることが実現した。 


 「実は『タイタニック』の試写会が国際フォーラムで行われた時、そこでチラシを配ったんですが、予告編を見た人の食いつきがよくてチラシのハケもよかったです」 


 この連載の中で高橋専務はシャンテを(2館ではなく)1.5館のミニシアターと呼んでいた。純粋にアート系映画だけを上映するのではなく、時にはあいまいな立ち位置の作品がかかることもあるという意味だったが、『フル・モンティ』に関してはそのことがむしろプラスとなった。 


 「いわゆるアート系映画ではないんですが、かといって普通のロードショー館では上映できないタイプの作品で、1.5館の劇場だからこそ、上映できたと思います。スタッフの熱意で上映が決まりましたが、封切ってみると、思った以上にお客様も入りました。客層は若い人が多く、男女の比率は半々でした。当時の宣伝プロデューサーは20世紀フォックスの高橋仁さんでしたが、何年か前に亡くなられたのが残念です」 


 笑顔が印象的な高橋仁さんは日本ヘラルド映画の宣伝部にいたこともあるが、その後は20世紀フォックスの宣伝マンとして元気に活躍していた。しかし、50代で突然、亡くなった。取材中にかつて活躍していた宣伝マンたちの話が出ることもあり、そんなところに過ぎた時間の流れを感じる。 


 『フル・モンティ』は音楽にも魅力があり、サントラ盤も話題を呼んだ。トム・ジョーンズが歌うテーマ曲「その帽子はそのままで」(ランディ・ニューマン作)やドナ・サマーの「ホット・スタッフ」など思わず体でリズムをとりたくなる70年代風味のダンスナンバーがたっぷり詰まっていて、オリジナル曲を担当したアン・ダドリー(<アート・オブ・ノイズ>のメンバー)はアカデミー賞のオリジナル作曲賞も手にした。 


 超低予算で作られた作品の方も、大作『タイタニック』と並びアカデミー賞の作品賞候補となった。 「あの年は『タイタニック』と『フル・モンティ』でしたね」と松本室長は語る。 


 実は主人公のダメ男を演じたスコットランド出身の個性派男優、ロバート・カーライルに99年にロンドンで取材をしたことがある。神経質で気むずかしい性格で知られ、取材を約束していてもドタキャンもあると聞いていたが、いざ、会ってみると気さくな雰囲気で、「日本からファンレターをたくさんもらったよ」とうれしそうな笑顔を見せていた。シャンテでこの作品を見て、彼のファンになった人も多かったはずだ。 


 この作品の興行的な成功の要因のひとつに、『タイタニック』の劇場での予告編上映があったとは知らなかった。 予告編とヒット作の関係については高橋専務がこんな話もしてくれた。 


 「予告編を流すことで、わりといい効果がでますね。もちろん、そこに来ているお客様と次にかける作品の感性があうかどうかの問題もあります。『ベルリン・天使の詩』(87)は大ヒットしましたが、この作品の後に同じヴェンダース監督の『都会のアリス』(73)の予告編をかけると大きなプラスになりました」 


 もっとも、どんな予告編でも流せばいい、というわけではないようだ。 


 「シャンテのお客様もそうですが、ミニシアターに来るお客様は自分をしっかり持っていらっしゃいます。だから、ヴェンダース作品の次に『フル・モンティ』のようにタイプの違う作品の予告編をかけた場合、自分の感性に合わないと思われる方もいらっしゃるかもしれないですね。上映作品で予告編の効果も変わる場合があります」 




◉「今年いちばん赤裸々なモンダイ作」というコピーも印象的な『フル・モンティ』。その後、ブロードウェイでミュージカル化されて話題を呼んだ。




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