拗ねたような声、斜に構えた目線、完成された演技と未成熟な“少年性”のギャップ――。林遣都は、永遠に「老けない」役者ではないだろうか。
1990年生まれの29歳。2007年に俳優活動を開始し、日本映画・ドラマ界を引っ張る人気俳優だが、その顔には今でもあどけなさが消えない。どの作品でも、熟成された完成度の高い演技を披露する職人なのに、いつまでも少年時代の面影が残っている。その形容しがたい「魔力」に、多くの人々が魅了されてきた。
滋賀県で生まれた林は、中学生の修学旅行中に都内でスカウトされたそうだが、その逸話も本人を見れば納得だ。役者として初めて世に出た『バッテリー』(07)から、天然のオーラが振り切っている。まさに、「ダイヤの原石」だったわけだ。
林のキャリアの中で、『荒川アンダーザブリッジ』(12)『おっさんずラブ』(18)『HiGH&LOW』(16)と代表的なシリーズは多いが、今回はあえてそれらとは別の出演作の中から、10本を厳選。優れた身体能力を生かしたスポーツ映画から、大人の色香を漂わせる官能的な作品まで、彼が生み出す“世界”に酔いしれていただきたい。
Index
林遣都出演のおすすめ映画(2007~2008)
1.『バッテリー』(07)
林遣都の映画デビュー作であり、初主演映画。ドラマ化・アニメ化もされたあさのあつこの人気小説を、翌年にアカデミー賞外国語映画賞受賞作『おくりびと』(08)を手掛ける滝田洋二郎監督が映画化した。
父親の転勤に伴い、岡山県ののどかな町に引っ越してきた天才野球少年が、仲間たちと出会い成長していくさまを爽やかに描いた青春スポーツ劇。映画デビュー作とは思えぬほどの林の堂々たる存在感たるや、この時点で既にスター性があふれ出ている。
天才ピッチャーを完璧なフォームで体現した林の身体的な説得力はもとより、能力が傑出しているが故に傲慢になりがちな主人公の精神的な未熟さ、家族との複雑な関係、挫折と復活など、中学生になったばかりの少年の内面も繊細に演じ切った。
本作で鮮烈なデビューを果たした林は、日本アカデミー賞やキネマ旬報ベスト・テンなど、多数の映画賞で新人賞に輝いた(ちなみに、日本アカデミー賞授賞式に参加した際は、緊張で汗だくになってしまったそうだ)。
2.『DIVE!!』(08)
仲里依紗と共演した『ちーちゃんは悠久の向こう』(08)を経て、林が再びスポーツ映画に挑戦。今度は「飛び込み」に青春をかける中学生に扮した。
孤高のヒーロー役だった『バッテリー』とは打って変わり、本作では純粋無垢なスポーツ少年をキラキラと演じている。練習続きで恋人にフラれてしまい落ち込むシーンや、仲間たちとはしゃぐ姿など、等身大のドラマも内包。ライバル役として、池松壮亮、溝端淳平が出演。3人の初々しい演技と、鍛えられた肉体がまぶしい。
『DIVE!!』の見どころは何と言っても、身がすくむほどの高所からの「飛び込み」だが(競技以外にも、海岸から海に飛び込むシーンもある)、高さ10メートルのジャンプ台から飛び込むシーンなど、役者本人が実際に行っているという。
撮影前に合宿を行い、当初は3メートルのジャンプ台から始めて、徐々に慣らしていったというが、やはり「高所から飛び込む」恐怖は相当なものだったとか。林の努力の跡が、画面にはしっかりと刻まれている。