原作の映画化権を獲得するために
映画の企画は、オリジナルで一から立ち上げる場合と、小説や漫画など原作があるものを映画化する場合の、大きく2つに分かれる。近年では、集客見込みの立ちやすい原作の映画化が多い傾向にある。今回の『宇宙でいちばんあかるい屋根』も、野中ともその人気小説「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)を原作に映画化された。
Q:「宇宙でいちばんあかるい屋根」の映画化は、前田さんが16年以上前に原作に出会ったところからスタートしたと伺いました。「相当年月がかかってる!」というのが率直な感想なのですが、これは通常の映画作りからすると長いほうなのでしょうか。
前田:そうですね。本作の場合は、空港の書店で見かけたのが出会いだったんですが、日本に帰ってから出版社に問い合わせたら、既に映画化権が押さえられてしまっていたんです。
ただそれから3年が過ぎても、この作品が映画化されるウワサも何も聞こえてこないので、もう1回改めて問い合わせたんですね。それでもまだ押さえられていて、間を少しずつ置いてはしつこく電話をしてたんですが、その間に文庫になって、そんなときに映画化権が1回切れたのを知ったんです。そこで、ニューヨークに在住されている原作者の野中ともそさんに連絡を取りました。
とにかく映画化権を取るまでに、すったもんだがありました。そんなわけで、16年間かかってしまったのですが、その間ずっとこの企画に取り組んでいたわけではないんです。
「宇宙でいちばんあかるい屋根」光文社文庫
Q:なるほど……。そもそも、原作モノを映画化する場合、映画製作者が最初に取るオーソドックスな行動は、原作の映画化権を取りにいくことなのでしょうか。
前田:そうです。まずは、その原作の映画化がまだ可能なのかを調査します。
私の場合はもう既に押さえられていましたが、「まだ押さえられていません。可能ですよ」となったときは、出版社の担当者にお会いするのですが、「どういう企画ですか」「あなたはこれまでどんな映画を作られてきた方ですか」とかいろいろ聞かれますね。
そして、担当者が「ある程度可能性があるな」と思ったら、原作者に声を掛けるわけです。ただ原作者に声をかけるまでも、また少し時間がかかります。
(映画化を)この人たちに委ねていいものなのかと、出版社の方からはやっぱり品定めはされますね。彼らが「この人たちだったら任せていい」と思ったら、原作者に話す。原作者に「こういった方向で、こういった監督で……」という説明をして、原作者が了承したところでやっと原作権を取得したということになります。
Q:出版社の方に打診される際、企画書などが必要になりますよね? どのような内容を記載するのでしょうか。
前田:いわゆる制作意図、なぜこの小説を映画化したいのか。どういうところを映画化して、いろんな人に広めていきたいポイントはどこなのか、を記載します。
それから、その物語をこちらで簡単にまとめたものと、どういうターゲットに訴えていきたいか、マーケティングの要素も入れていきます。二十代前半女性に観て欲しいのか? それとも高校生なのか? はたまた、シニア層なのかと、まずはメインターゲットをどこにするか決めます。加えてサブターゲットも想定し、企画書に入れていきます。そこがないと、配給会社もなかなか決まらない。私がプロデューサーを始めたとき、まずこのマーケティングの重要性を先輩に教えられましたね。
また、「製作委員会方式」(複数の企業がチームを組んで、出資する)というのが日本映画のほとんどのスタイルなんですが、この形式にはまず「幹事会社」があって、「配給会社」があります。映画を撮る時には配給会社、つまり劇場に配給するという出口をちゃんと決めて作らないと、映画を作ってから配給先を探すのはかなり危険だと思っています。
また、他には何となくのイメージキャストも提案しますね。
Q:その企画書は、出版社や配給会社、そのほかどういった方々に提出されるのでしょう?
前田:もちろん配給もそうですし、私の仕事は出資を募ることにもあるので、出資会社にも見せますね。
また、先ほどお伝えしたようなビジネス用の企画書のほかに、「この小説を映画化したら、いかに面白くなるか」をアピールするものも別途作成します。
Q:配給会社や製作会社ってどうやって決まってるんだろう?というのも気になるのですが、たとえば「配給会社の行脚」みたいなこともあるのでしょうか。
前田:それは確かにあります。ただ今回は、最初に伺ったKADOKAWAさんで決まりました。家族の話、ドラマっていうこともあって、これまでKADOKAWAがわりと得意としてきたこともあり、まずご相談したんです。こんなにすんなり決まることも珍しい、というくらいスムーズでしたね。
Q:企画書の段階で、予算的な部分も記載するのでしょうか?
前田:書きますね。ですが、私は今回失敗してしまったんです(笑)。実はやり始めて気づいたんですが、『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、結構お金のかかる大変な作品だったんです。
まずは夜のシーンが多いわけですね。だけど、主演の清原果耶さんが未成年だったので、22時までしかお仕事をしてはいけないという法律があるんです。しかも夏に撮ってるので、19時を過ぎないと暗くならないんですよ。
だからその辺をどう映像化するか、という試行錯誤はありました。予算的にも、調整が必要でしたね。