プロデューサーと監督の関係
Q:映画化権が取れて、出資会社や配給会社が決まって、スタッフやキャスト選びに移るかと思うのですが、藤井さんが監督されるというのは、最初に決まっていたのでしょうか。
前田:藤井監督とよくご一緒されているカメラマンの今村圭佑さんから、かなり早い段階で「すごく面白い人がいるんです」というのはお聞きしてたんです。コマーシャルをたくさんやってて、オファーもいっぱいあるのに、とにかく映画がやりたくて一所懸命やってる方なんですよと聞いていて、藤井さんの作品にすごく興味がありました。
藤井さんが監督された『ポケットモンスター サン・ムーン』のショートフィルムCMも、すごく良くてワクワクしました。そんな中、偶然お会いする機会があったんです。
ですが、藤井さんに『宇宙でいちばん明るい屋根』をお願いしようと思っていた訳ではないんです。また、そのとき藤井さんから「実はこういうやりたいのがあるんですよね」とお聞きした短編小説があったんですが、それは海外のもので、それもまた映画化権が押さえられてしまっていたんですよ。
でもその作品を読むと、「この小説が好きなんだったら『宇宙でいちばんあかるい屋根』も絶対好きじゃないかな」って思ったんです。その後、藤井監督に話してみると、すぐに「やってみたい」と言ってくれました。
Q:藤井さんが、本作をやってみたいと思ったきっかけはどのようなものなのでしょう?
藤井:当時、今から4年前ぐらいは、「どんな映画やりたいですか」って聞かれたら、SFやファンタジーをやりたいですって言ってたんです。
その時に(前田)浩子さんから、いくつか紹介された小説の中で、この「宇宙でいちばんあかるい屋根」が一番面白かったんですよね。当時の自分は、別の映画を製作中で、内面をえぐるような作品を作っていた時期だったからこそ、この本が光り輝いて見えたというか、優しい気持ちになれた気がします。
前田:ちょうど『青の帰り道』(18)の製作が大変な時で、「やっと外に出て人に会えるようになりました」って言ってましたよね。
藤井:当時はやさぐれてアル中でしたね(笑)。
前田:うん、やさぐれてましたね(笑)。何かやることで次に行きたいんだなっていうのを、すごく感じました。
Q:『宇宙でいちばんあかるい屋根』では、おふたりで脚本も話し合って作られたとお聞きしました。脚本の作り方については次回でじっくり伺わせていただきますが、企画を作っていくときの、プロデューサーと監督の関係性について、おふたりのお考えをお聞きしたいです。
前田:私はやっぱり監督には寄りそうようにしています。監督を守ることは、作品を守ることだと思っているので、監督が見失ったり見誤ってたら、恐れずにちゃんと指摘していきます。
また、指摘する中で、見誤ってたのは私の方だったと気づかされることもあるので、その時その時に感じたことや思ったことは、1回自分の中で冷静に考えますが、意見はきちっと伝えることが、やっぱり誠実なことかなと思ってます。コミュニケーションをきちんと取っていくようにしていますね。
Q:対話が大切なんですね。
前田:「これどうしたらいい?」ってプロデューサー仲間から相談されたり、一方で監督から「こんなことをプロデューサーから言われたんですよ」って相談されることもあるんですが、プロデューサーと監督が揉めてしまうケースは、ちゃんと話してないことがほとんどですね。
だから私は、藤井さんには絶対嘘は言ってません。本当に嘘ついてないなって、自分でも自信がありますね。「ここはちょっと納得いかないな」っていうところは延々と話すので、藤井さんから「浩子さん話長いです」って言われるんですけど(苦笑)、とにかく嘘をつかずにきちんと、その時に自分が思ったことを伝えます。
そうすると、こういうのがありますよって逆にアイデアが返ってくることもありますし、そういった監督とのキャッチボールによって、たくさんのキャストやスタッフを引っ張っていけると思っています。
藤井:プロデューサーによって、作品って絶対にクオリティが変わるんですよね。僕はプロデューサーと一緒に映画を作ってるっていう気持ちが強くて、浩子さんじゃなかったら『宇宙でいちばんあかるい屋根』はもっと違う映画になっていたと思います。
浩子さんは、現場では、ほとんど何も言わないんですよ。見守ってくれているんです。自分たちが愛を持って作ったものをプロデューサーがどう売ってくれるか、この映画をどう外に届けてくれるかっていうところの役割分担みたいのはすごくあるし、現場は任せてもらって、脚本と編集は一緒にやる、そういった関係性でした。
役割は違うけど、一緒にものを作ってるって思えるプロデューサーって結構珍しいというか、そんなに多くない。そういう意味では非常に評価してますよ。お互い大事にしている世界っていうのを、これまでたくさん話したりもしたしね。
Q:お互いの波長も大事ですね。もの作りへの情熱が通じ合えるかどうかも、影響しそうです。
藤井:浩子さんとは映画の趣味がすごく合うんですよ。浩子さんは「あの映画はひどい」とか、ちゃんと酷評もするし、素晴らしいものに対しては「いやそれ、30回聞いたけど!」っていうくらい同じ話を何回もするし。
前田:めっちゃ面倒臭い人じゃないですか……(苦笑)。
藤井:面倒臭くないですよ(笑)。だから現場に入ってからは、うまくいかないっていうことは全くなかったです。撮影前のキャスティングの段階でもなかったかな。
前田:逆に楽しかったですよね、キャスティングとか。
藤井さんには、私もいっぱい学ばせてもらってきたし、打てば響くっていうか、今回は「楽しい」しかなかったですね。大変ではありましたけど(笑)。
やっぱり大変だったのはお金のことですね。理想と現実の狭間の中で、成立させていくのが大変でした。
でも『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、「よくこの予算で出来ましたね」ってみなさんに言われるんです。「製作費の倍以上(かかってるよう)に見える」って言われていて、そうなったらプロデューサーとしては「やった」って感じですね。
藤井:僕はプロデューサー泣かせなこともたくさんするんです。オーディションして、キャストはこの日までに決めなきゃいけませんよ、って言われても、自分が納得するまでは全然決めないし……。
でも浩子さんは全部受け止めてくれるというか、頭ごなしに駄目ですって言わない分、とても戦いがいがあったし、何よりも一緒に作ってる感じがしましたね。お互い嫌悪したぶつかり合いみたいのは、一度もなかったですね。
前田:藤井さんはクオリティに関してはめちゃめちゃ厳しいですし、めちゃめちゃ大変ですよ、本当。
藤井:浩子さんは、岩井俊二監督とかクエンティン・タランティーノとか、いつも大変な感じの監督としかやらないですもんね(笑)。
前田:そうなんですよ(苦笑)。でも、その中に藤井道人が入ってきても負けないですよ。
藤井:いやいや……。
前田:それに、藤井さんからの要求はただのわがままとかじゃないし、彼自身、誰よりも血反吐を吐いているから説得力もあるんです。現場での演出もものすごく的確ですしね。技術系のスタッフは多分緊張すると思いますよ。映画作りのひとつひとつを分かってるから、ちょっとしたハード系の話でごまかされたりはしないんです。
藤井:浩子さんと出会った時期の『青の帰り道』ぐらいから、映画制作に対する意識が変わった気がしています。映画が人生で何度も作れないんだって気づいたことが、大きいですね。
100点を目指さないんだったら撮らないほうがいいんです。自分たちで100点だと思って作ったものでも、周りからは星何個っていう評価を受けてしまうものじゃないですか。だからこそやっぱり自分がやりたいことはちゃんと言って、そしてこだわり抜くことは、プロデューサー泣かせではあるんだけど、結果的にはそっちのほうがいいんじゃないかなと思うんです。それは、関わってくれたクルーのためにもですね。
「どんな映画を作ったんですか」って聞かれて、作品を伝えたときに「あの謎映画か」って思われるよりは、「あの映画ね!」って言ってもらえるように……。やっぱりクオリティには執着したいですね。