製作委員会方式を、うまく回すコツは?
Q:今日のお話で「製作委員会方式」の話題が出てきましたが、製作委員会方式って「監督とかプロデューサーの意向を反映できないんじゃないか」とネガティブなイメージを持たれることも多いかと思います。今回、うまくいった理由はどこにあるんでしょう?
藤井:浩子さんが武蔵坊弁慶になってくれて、現場に落としてないこともたくさんあるでしょうけど、今回製作幹事をやってくれたハピネットのチームの人たちが、何回も現場に来たり、編集現場に立ち会ったり、「自分の映画」だって思ってくれていたことが大きいと思いますね。
配給のKADOKAWAさんも脚本に対して、気になったことは言ってくれるけど、こうしないと配給を降りますとか、出資を辞めますとか、そういうことには全くならなかった。
前田:キャスティング含めて、とにかく話し合いの機会を多く設けるようにしましたね。「このメンバーで一緒に作ってる」感を持っていただけるように。その結果、全員含めて「ONE TEAM」な感じはすごくありました。
関係者向けの試写をしたときに、全員が飛び出してきて、「すごい! これ面白い!」って皆さんが言ってくれて、1人もモチベーションが下がらなかったっていうのも、ちょっと珍しいですよね。
今回のインタビューはオンラインで実施。
Q:ここも、コミュニケーションが大切なんですね。
前田:さっき仰っていただいたように、製作委員会方式って、出口が見えなくて悶々としていって、その結果、作品がうまく進化できてるかっていうとそうでもなかったりする……というケースもあるんです。でも今回は、本当に我々に預けてくださって、懐の深いパートナーでしたね。
藤井:製作委員会方式もケースバイケースだなと思っています。ただのビジネスとして繋がっているんじゃなくて、純粋にこの映画をなぜ今作る意味があるかっていうことを、みんなが自分事化してることは、とてもいいことだと思うんですよね。
製作委員会が機能不全を起こしているパターンは、みんなが何のためにその映画を作っているのか、分からなくなっているときですよね。そういう危険信号が出ているのはよく目にします。
授賞式とかで初めてお会いする人から「よく頑張ったね」って言われて、あ、製作委員会の方だったの、っていうのは多いです(笑)。そもそも会わないことも多いから。今回は、みんな知り合いです。
前田:そうそう、だから今回は、監督と製作委員会の距離を縮めていくことが私の仕事かなと思っていました。ハピネットさんやKADOKAWAさんに現場に来ていただいたりしましたね。
監督は現場の指揮官なので、普通は余裕がないところもあるのですが、気持ちが安定していたのか、来てくれた製作委員会の方々とおしゃべりして、「面白いの撮れてますよ」って言ってくれてました。みんなも現場から元気をもらって帰っていくので、「また来たい」って言ってくれて。いろんな良いエネルギーが、どんどん育っていった作品でしたね。
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海外の映画ニュースなどを見ていると「映画化権獲得!」という見出しを目にするものの、その大変さは、なかなか“肌感”として把握しづらいものだったのではないか。今回のインタビューで、スタッフ・キャストを決める前段階の「企画立案」の部分が、よりクリアになったように思う。
また、よく監督とプロデューサーの関係性を「共犯」というが、藤井監督と前田プロデューサーの愛ある掛け合いからは、「監督」と「プロデューサー」の理想の関係性が垣間見える。お気に入りの作品のプロデューサーを調べてみるのも、映画鑑賞のオツな楽しみといえるかもしれない。ぜひ、実践していただきたい。
次回のテーマは、脚本。「3年かけてじっくり練っていった」という『宇宙でいちばんあかるい屋根』の脚本作りを中心に、映画の屋台骨となる「脚本」はどのようにして生み出されていくのか、詳しく聞いていく。お楽しみに!
取材・文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『宇宙でいちばんあかるい屋根』
(c)2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会
2020年秋全国公開
配給: KADOKAWA