画面にいるだけで、落ち着きと豊かさをもたらす人だ。窪田正孝が出ている作品を観ると、いつもそう感じずにはいられない。
エキセントリックな役でも、純朴なキャラクターでも、人間ドラマでもファンタジーでも、彼は当たり前のように、画面に溶け込んでいる。物語や世界観を片時も壊すことなく、順応する――。まるで、春の夜気のような役者だ。微かに温もりが残る、涼しさ。寂しさと爽やかさが混ざり合った、言い知れぬ空気感。どんなに強烈な表現を披露しようとも、窪田の演技自体は、いつだって恐るべき純度で澄んでいる。
生粋の演技巧者であることは、疑いようもない。しかし、技術以上に「作品にノイズを持ち込まない」彼の個性には、毎度驚嘆させられる。1988年生まれの31歳。2006年にデビューし、芸歴は15年目を迎える。現在ではNHK連続テレビ小説『エール』やマウントレーニアのCMなど、幅広く活躍。そのどれもで、違う表情を見せる。
今回は、窪田がこれまでに出演してきた映画の中から、10本を厳選。正直、先に述べたように「物語にぴったりと寄り添う」タイプのため、選者によって10本の内容は大きく変動するだろう。いちファンの意見として、ご容赦いただければ幸いだ。
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窪田正孝出演のおすすめ映画(2010-2011)
1.『十三人の刺客』(10) 監督:三池崇史 141分
レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ然り、優れた役者には、監督との固い絆があるものだ。窪田の場合は、三池崇史監督がそこに該当するといえよう。『ケータイ捜査官7』(08~09)から『初恋』(20)に至るまで、窪田の役者人生の端々で、三池監督と組んできた。
三池監督によるリメイク版『十三人の刺客』は、タイトル通り13人の猛者たちが悪鬼羅刹の暴君(稲垣吾郎)に天誅を下すべく立ち上がる物語。“刺客”に扮するのは役所広司、松方弘樹、山田孝之、伊勢谷友介といったオールスターだが、なんとその中に最年少として窪田が大抜擢。伊原剛志演じる剣豪の弟子として、命を賭して「謀反」を起こす若武者を遮二無二に演じきっている。
後半30分ほどは、一騎当千の剣戟が怒涛の勢いで畳みかける本作。血風吹きすさぶ戦場で覚醒していく窪田の“深化する演技”には、驚嘆させられる。戯れで民を殺しまくる稲垣の強烈なサイコパスぶりや、脇を固める松本幸四郎、市村正親ら大御所の熱演も見もの。わずかな出演時間ながら、斎藤工も重要な役どころで出演している。
2.『僕たちは世界を変えることができない。』 (11) 監督:深作健太 126分
向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田という当時のフレッシュスターが勢ぞろいした実話ドラマ。カンボジアに小学校を建てるために奔走する大学生たちの姿を、ドキュメンタリータッチで描いた。メインの出演陣が全員ブレイクを果たしているという、メモリアルな一作でもある。
向井演じる主人公の友人に扮した窪田は、なんとなく張り合いのない日々を過ごしていた大学生が夢に打ち込むようになり、やがてカンボジアの過酷な現実を知って絶望する――というグラデーションを流れるように演じた。
青年たちが人生の目標や生きがいを見つけていく姿や、無力さを痛感しながらも「世界を変えることはできないが、笑顔にはできる」と自分たちに出来ることを懸命に探し、使命を果たそうとしていくさまが美しい。ライブ感を出すため、現地での撮影シーンなどはセリフがない場合も多かったといい、当時の窪田たちの“素”の表情が垣間見える。
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