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【CINEMORE ACADEMY Vol.2】脚本編 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作り方

【CINEMORE ACADEMY Vol.2】脚本編 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作り方

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「ト書き」の心得は、映像が浮かぶこと



Q:『宇宙でいちばんあかるい屋根』の脚本を拝読したのですが、「目線の先に◯◯がある」とか「木調の比較的新しいリビング」「コーヒーから湯気が立っている」など、描写がかなり細かい印象です。藤井さんのこだわりかな、と感じたのですが、ト書き(状況や人物の行動を説明する、セリフ以外の文章)をしっかり書き込むことは、意識されているのでしょうか。


藤井:まさしくそうですね。例えば最近脚本家さんとぶつかっちゃったのは、ト書きで「とある公園」と書いてあって、「とある公園」ってどこですか、どんな公園ですか、って僕が質問攻めにしちゃって(笑)。


言葉を頼りに、スタッフをはじめ色んな人たちがその世界をイメージするので、なるべく事細かに書くことは、大事にしています。脚本家によっては、「イメージとかは特にないので、セリフだけ書きます」みたいな人もいらっしゃいます。自分で書く時は、なるべく映像が浮かぶ脚本を意識して書いていますね。


僕自身は絵コンテを一切描かないので、だからこそ、文字として残ることは事細かに書いてスタッフとなるべく共有できるようにしています。絵コンテを描ける人は描いた方がいいなって思うんですが、僕が描くとどうしても俯瞰めになっちゃうんですよね。


「こういうイメージです」って絵を描くと、それがゴールになってしまうというか。CMの仕事とかだと絵コンテを描かないといけないのですが、描くとどうしても俯瞰めの絵になっちゃって、「全然コンテは関係ないですけど」って話からはじめちゃうんです(笑)。だったら書かなくていいよっていう。



『宇宙でいちばんあかるい屋根』脚本内の一部


Q:(笑)。藤井さんの創造性を生かす、最適なスタイルなんですね。脚本家と監督が別の場合についてもお聞きしたいんですが、現場で「直したいな、変えたいな」ってなったときにどうするんだろうと常々思っていて。


藤井:本当に脚本家さん次第で、一語一句変えちゃダメだよっていう人もいます。でもやっぱり現場って総合力だと思うんです。役者さんが「監督、このセリフじゃないと思うんですよ。ここでこれは言えない」とか、現場ではそういうのがよく出てくるんですよ。その時に「脚本家先生が言ってるんで変えられません」っていうのは、ちょっと違うのかなと。


脚本家さんが書くのは「白本」といってベースとなる部分なんです。そのあとに例えばロケハン(ロケーションハンティング:撮影場所を決めるための取材)に行って場所が変わりましたとか、ちょっと設定が変わりましたとか、衣装合わせでこういうアイデアが出て、これ入れたいです……といったスタッフなどからの要望は、大体いつも自分が巻き取って、白本に追加で書かせていただくケースが多いですね。


Q:なんとなく、脚本家さんってそんなに現場にいないのかな?と思っていたので、今のご説明で合点がいきました。


藤井:今回は、共同脚本家的な立ち位置で浩子さんがいてくれたことも、大きかったですね。僕は結構リズムで書いちゃうので語尾や表現がおかしいところがあるんですが、一文字一文字赤字で直してくるんです。1回だけ、「もう赤字はやめてくれ……!」ってヒステリーを起こしました(笑)。


前田:いやでも、私は岩井俊二監督に対してもクエンティン・タランティーノに対してもウォン・カーウァイに対しても、同じことをしていましたよ(笑)。書くことはやっぱり大変な作業ですし、リスペクトもしているし、明らかにこれ違うんじゃないかな?っていうところを赤にして、こっちの方がいいんじゃないかっていうのは、青文字にしてたんです。


でも、藤井さんってすごく順応性が高くて、かつ、打てば響くところがあって、返しもすごく早くて意外性のあるものを戻してくるんです。藤井道人って「やんちゃな男の子」ってイメージがあったんですが、意外に女子なところもあって、掘り出すと面白かった。あのやり取りは、私にとってはとても興味深かったですね。


赤字の話でいうと、これまで私はWordで赤を入れていたら、藤井さんが「脚本専用のソフトがあるんですよ」って教えてくれて。それで書いたら、モチベーションがまるで違いました。


藤井:脚本ソフトの「O's Editor」が書きやすくて、大学時代から使っています。


前田:でも、あとで気づいたんですが、このソフトだと赤字が入れられないんですよ(笑)。「赤字、入れさせないために教えたな……」って、確信犯だなと思いましたね。


藤井:(笑)。


前田:でも、そのソフトで書き始めたら、確かにはかどるんですよ。いろんなツールの使い方を知ってるのは、流石だと思いました。教えられる部分も多かったですね。


あと、藤井さんは期日を守る。これ、今までの監督で1人もいなかったです。実は当たり前のことかもしれないけど、やっぱりすごいですよね。期日の1日前とかに送ってくるので、めちゃくちゃしっかりしてる人なんです。


藤井:仕事なんでね。最近はちょっと寛大になってきたんですが、やっぱり遅刻する人とか、納期を遅れる人がすごく嫌いなんですよ。「この時間に来てほしい」って言われて、しれっと待たされたりすると、せっかちなんで「何待ちですか?」ってなっちゃう。


前田:絶対遅刻しないですもんね。それも珍しいですよ。私が組んできたのは、遅刻するのが当たり前みたいな人が多くて、監督じゃなかったらどうやって社会生活を送ってるんだろうみたいなところあるけど。


藤井:監督は遅刻しちゃいけないと思う理由の一つは、発言権だと思っていて。「遅刻した人間の言ってることなんて、正直聞きたくない」って思われたくないじゃないですか。やっぱり、最初からビハインドを背負った状態だと演出って通りづらいんですね。だから、規範はしっかり守った上で、「当たり前のことは当たり前にする」と意識しています。



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