面白い脚本とは?
Q:長時間にわたり、素敵なお話をありがとうございます。「脚本編」の締めとして、藤井監督に「面白い脚本とは?」をお聞きできればと思うのですが……。
藤井:いやこれは難しいですね……。例えばですが、「映画とは、どう説明することなく届けることができるかだ」って思って書くと、本打ちで「伝わらないんでちゃんと説明してください」とか「回想を入れた方がいいんじゃないですか」って言うプロデューサーさんもいますし……。
多分好きな映画ってそれぞれみんな違っていて、僕自身がずっと追っかけてきたのは、『エターナル・サンシャイン』(04)や『マルコヴィッチの穴』(99)、『脳内ニューヨーク』(08)では監督もされたチャーリー・カウフマン。とにかく脚本が面白いんです。
日本の脚本家で好きなのは、師匠の青木研次。宮藤官九郎さんや三谷幸喜さんは、学生時代に純粋にエンタメとして好きでした。あとは、岩井俊二監督の世界観は自分の中では尊敬というか、憧れていますね。
Q:『脳内ニューヨーク』めちゃくちゃ面白いですよね……! 本当に、こんなに貴重なお話てんこ盛りで、どうもありがとうございます。
藤井:いえいえ! 脚本の話は、まだまだいっぱいあるんですよ。こんなに書いたけどお蔵入りかよ、とか。脚本で結局お金が集まりませんでしたっていうケースだったり、キャストが集まりませんでしたってこともあるし、もうそのぐらい脚本ってのは心臓の部分なんですよね。
脚本が面白くなくても良い映画ってたまにあると思うんですが、脚本が面白くなくて傑作って多分ないと思います。まずは絶対に脚本が大事だし、例えばNetflixは、キャストとか監督以上に、脚本のプライオリティが一番高いんですよね。
Q:確かに……! 改めて、脚本の重要性を感じました。最後に1つだけ……。「こんな脚本家は嫌だ!」がもしあれば(笑)、脚本家を目指されている方のためにも!ぜひ教えてください。
藤井:(笑)。過去の例で言うと、本打ちの時に「もっと映像的にこうしたら……」と脚本家の方に提案したら、「なんで映像的にしなきゃいけないんですか!?」みたいな感じで1秒でぶっ飛ばされたことがあります。「僕の過去の作品観てますか? 僕にオファーしてるってことはこういうことですよね」って言われて、勉強になりました。
今になってみると、その脚本家さんのことをもっとちゃんと勉強して、「〇〇さんだったらこういうふうになると思うんですが、今回映像的にもっとこういう広がりを持たせたいですよね」とか言えば良かったなと、ちょっと反省はしましたね。お互いのベクトルが同じ方向に向いてないと、「やっぱり駄目だなこの人は……」ってなっちゃう。
あとは、ドラマと映画を両方書いてる脚本家さんはたくさんいらっしゃると思うんですが、やっぱり違うものなので……。ドラマでの成功体験を映画に持ち込まれると、少し悲しくなりますね。別物なので。
Q:(苦笑)。
藤井:ドラマの映画化はよしとしても、ドラマはとても受動性が強く、一方映画は能動性が強く、五感で感じて欲しいんです。沈黙にもすごく意味があって、カメラのレンズとの距離感でセリフを補うこともできる。例えばモノローグで心の声を言っちゃおうみたいなのとか、分かりやすく分かりやすくってやっていくと、それは映画の良さをどんどん殺しちゃうことになるんじゃないのかなって、思ってます。
多分、良い脚本家・悪い脚本家っていうよりは、「こういう映画を目指したいよね」とか「こういう人に見てもらいたいよね」っていうコンセンサスが崩れたまま脚本を作っちゃうと、良い脚本家もやっぱり悪い印象を持たれちゃったり、そこは監督も然りですね。
Q:忌憚ないご意見、ありがとうございます。前田さんはいかがですか。
前田:関わった人から聞いた話ですが、あるドラマの大御所の脚本家の方は、現場で台本を広げて、とにかく語尾の一語が間違っただけでも激怒する、と聞いたことがあります。例えば「何なんでしょ」っていうセリフを「何なんだ」って言うと、「『でしょ』に命かけてるのに!」って。だから現場がビクビクしちゃうらしいです。
私が嫌なのは、現場で生まれる化学反応を掬いとれない脚本家ですかね。『宇宙でいちばんあかるい屋根』だったら、主人公の年齢に一番近い清原果耶ちゃんが演じていると、彼女の中で何かが生まれることがある。それを、「脚本と違う!」じゃなくて、面白がれる人がいいですね。監視するみたいに脚本広げて現場で立ってられると……。「そんな人いないでしょ」って思うかもしれないけど、本当にいるらしいですよ(笑)。
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「脚本づくり」と一口に言っても、そこには作品以上に熱く、苦しいドラマが詰まっている。人も金も大きく動く「映画」なればこそ、その心臓部である脚本の責任は重大。脚本を紡ぐ者たちは、技術はもとより、矢のように飛んでくる無数の意見に負けない、メンタル面も問われそうだ。
次回は、「プリプロダクション」と呼ばれる撮影前の準備について、細かく聞いていく。引き続き、お楽しみに!
監督:藤井道人
日本大学芸術学部映画学科卒業。脚本家の青木研次に師事。映像プロダクション「BABEL LABEL」を2010年に設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)で劇場公開作品監督デビュー。以降、『光と血』(17年)、Netflixオリジナル作品『100万円の女たち』(17年)、『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)が公開される。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門を含む6部門受賞。また他にも多数映画賞を受賞。新作映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』(今秋公開予定)が控える。
プロデューサー:前田浩子
鹿児島県出身。映像企画・制作会社、株式会社アルケミー・プロダクションズ代表取締役、プロデューサー。大学在学中から語学力を活かし、マドンナ、ローリングストーンズ、マイケル・ジャクソンなどの外国人アーティストのコンサートツアー、及び音楽番組の制作に携わり、その後映画・PV・CMに活動の場を移す。映画監督・岩井俊二と出会い、1996年に劇場用映画『スワロウテイル』で映画プロデューサー・デビュー。岩井作品は他に『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)『花とアリス』(2004年)がある。1999年『ビッグショー・ハワイに唄えば』(井筒和幸監督)プロデュース、同年『GTO 映画版』(鈴木雅之監督)のキャスティング。
その後海外作品へも活動の場を広げる。1998年長野オリンピックの米国製作記録映画、オリンピック・オフィシャル・フィルムを制作統括。1999~2003年に香港のウォン・カーウァイ脚本・監督『2046』の制作。2003&2004年公開のクエンティン・タランティーノ監督・脚本『キル・ビル』をプロデュース。2005年台湾映画『Silk』(チャオ・スーピン監督)のキャスティング、及び制作コーディネート。
その他主なプロデュース作品
「虹の女神 レインボーソング」(06:熊澤尚人監督)、『百万円と苦虫女』(08:タナダユキ監督)、『洋菓子店コアンドル』(11:深川栄洋監督)、『MY HOUSE』(12:堤幸彦監督)、『ぱいかじ南海作戦』(12:細川徹監督)、『星ガ丘ワンダーランド』(15:柳沢翔監督)、『オケ老人!』(16:細川徹監督)、『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(19:細川徹監督)
取材・文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『宇宙でいちばんあかるい屋根』
(c)2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会
2020年秋全国公開
配給: KADOKAWA