@Christine Plenus
『その手に触れるまで』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 狂信化してしまった若者たちは、人生を取り戻すことができるのか【Director’s Interview Vol.58】
主人公を演じたイディル・ベン・アディの眼差し
Q:たしかに議論が起こるというのは、映画として、そして社会として健全な結果だと思います。この作品の成功の最大の要因は、主人公アメッドを演じた、イディル・ベン・アディではないでしょうか。どのように彼を見つけたのですか?
ジャン=ピエール:キャスティングは私たち2人で行います。リュックの息子、ケビンもオーディションを担当していて、まず彼が候補者たちの短い映像を撮影します。100人くらいの候補者の少年たちに、1つか2つのシーンを実際に演じてもらいました。
Q:その100人の中でイディルが際立っていたわけですね。
ジャン=ピエール:イディルに会ったのは、オーディションの最初の頃でした。初めから、彼の持っているリズムに惹かれましたね。セリフ回しだけでなく、身体が持つリズムです。オーディションではリュックか私が母親役を演じ、自宅で体を清めた後、祈りを捧げるために自室へ入ろうとするアメッドが、母親の「キスして」という言葉を拒否するシーンを演じてもらいました。イディルは瞬間的にそのシーンに入り込んだのです。同じシーンでいくつかのバリエーションを要求したところ、毎回、パーフェクトな演技で応えてくれました。
Q:映画を観ていると、イディルの「瞳の表情」に驚かされます。少年の純粋さの奥に、深い闇が潜んでいるような……。新人俳優の彼に、演技を任せたのでしょうか?
リュック:イディルの眼差しは彼の個性で、初めて会った時から、相手の視線を外すような、伏せ目がちなところがありました。そんな彼の身体性も、キャスティングのポイントのひとつです。カメラで彼の目線より少し高い位置から撮ると、ちょっと自閉症的な少年に見えるのです。この映画の中で、アメッドは、極端なイスラム指導者のイマームの言説に囚われ、閉鎖的な心理になってしまいます。他人に触れたくなくなり、目でもコンタクトを取りたくない。そんなアメッド役に、イディルの個性が合っていたのです。
Q:アメッドが伏せ目がちではなくなるシーンは、あえて指導したわけですね。
リュック:イマームの前にいる時と、崇拝する殉教死した従兄の姿を、パソコンの画面で見つめる時は、きちんと目を開けて凝視してもらいました。
Q:ほぼ主人公のアメッドが中心の物語ということで、演じるイディルにとって難しいシーンも多かったのではないですか?
リュック:いや、イディルにとってもそんなに難しいシーンはなかったと思います。あえて挙げるなら、教師との一連のアクションシーンでしょうか。ナイフを持ったアメッドが、ドアに強く腕をぶつけるので、ケガをしないようにイディルの腕にプラスチックの防護カバーを巻き、ドアも完全には閉めきることができないよう細工をしました。このシーンは細かいタイミングを合わせることが重要で、イディルだけでなく、他のスタッフも非常に神経を使って撮影したのです。