取材を重ねて見えてきたもの
Q:存廃問題を主軸に据えてから、脚本作りはどのように始めたのでしょうか。
渡辺:取材から始めました。実際に現場に行って、そこにいる多くの学生たちと話をしましたね。話を聞いているうちに、大学の学生課の中に、実際に壁ができたことが分かったんです。突然その壁が最近できたんだって学生たちが言うので、実際に見に行ったら、本当に学生課の中に壁があって、大学と学生はその壁越しでしか話ができなくなっていました。
その壁が作られたこと自体が、なんだか象徴的だなと思いましたね。そういう取材で見聞きしたことを踏まえて、物語を組み立てていきました。
Q:本作では学生たちそれぞれのキャラクターバランスが絶妙で、彼らそれぞれが色んな気持ちを代弁してくれているように感じました。実際の学生に取材されたとのことですが、学生たちからの影響はあったのでしょうか。
渡辺:キャラクターを作るにあたり、一人の意見より、色んな意見がある方がいいなと思ったんです。そもそも色んな意見があることが、学生寮の良さであり、誰かの意見に偏らないことも、いいところなんですよね。あのような場所が必要な理由もそこにあると思います。
寮には本当に色んな子がいて、それぞれ色んな意見があるのですが、それが誰か一人のところに集約されていかないんです。そういう風に場を持ちこたえていくって、簡単なようでいて、すごく難しいことだと思います。それでも彼らは、そうあるべきなんだと、色々と折りあったりしつつ、自分も臆さないし、相手のことも尊重しているんですね。
取材をして感じたその良さを、しっかり形にしたいと思いましたね。それで、取材した学生たちを元に、キャラクターのパターンをそれぞれ起こしていきました。
Q:そのキャラクターの中心にもなる三船と志村は、黒澤作品の名コンビから命名されているかと思いますが、何か意図はあるのでしょうか。
渡辺:そうですね。まさに(七人の侍の)志村喬のような学生がいて、彼は寮全体の精神的支柱のような感じなんです。彼はまた、すごく人徳があるわけですよ。多分まだ21,2歳だと思うのですが、もう発想が公人なんですよね。大人の政治よりよっぽど公のことを考えて発言するんです。
一方で、三船敏郎のようにドシッとした存在感のある学生もいて、彼は凄くカリスマ性があるのですが、かと言って、リーダーとして存在しようとはしていない。
寮の中にはそんな象徴的な人たちがいましたね。彼らをモデルにしてキャラクターを立ち上げた感じです。
Q:象徴的だったが故に、そのまま三船と志村というネーミングになったんですね。
渡辺:実はあれはですね。最初につけた仮の名前がそのまま使われたんです。主な出演者として男の子が5人も出てくるじゃないですか。普通の名前をつけると、誰が誰か分からなくなるんですよね。小説を読むときとか、そういうことってありませんか?
読んでもらう方としては、そうなるのが嫌だったので、最初は記号みたいな感じで分かりやすい名前をつけておいたんです。キューピーはかわいい男の子で、マサラはちょっと変人、三船と志村は、そのままズバリ三船敏郎と志村喬ですね。ドレッドはドレッドと。
後でちゃんと別の名前を付ければいいやと思っていたのですが、スタッフみんながですね、もうこれでいいと。名前に愛着持っちゃったし、このままでいいじゃないかとなりまして、それであの名前がそのまま残ったんですよ。