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危機感を共有するために必要なのは、新しい伝え方の発明『ワンダーウォール 劇場版』脚本:渡辺あや【Director’s Interview Vol.60】

危機感を共有するために必要なのは、新しい伝え方の発明『ワンダーウォール 劇場版』脚本:渡辺あや【Director’s Interview Vol.60】

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“もどかしさ”と“恐ろしさ”



Q:消しゴムやティッシュボックス、ペットボトルなどを、派遣社員や大学職員に見立てて、権力との対立構造を話すシーンはとても素晴らしく、思わず感動しました。これも取材して出てきた実際のエピソードなのでしょうか。


渡辺:あのシーンは、取材と私の実感が元になっています。以前は、ベテランで顔馴染みの職員が窓口に立っていたので、対立しつつも人間同士の対話がちゃんとあって、抗議の場所以外では、一緒にお茶したりしていたそうなんです。それがある時期から、窓口に派遣社員の方が増えてきて、対話がなくなり一方通行になってしまったと。


対話ができない機械的な窓口、つまり人間が部品のようになってしまっている状況なんだなと、彼らの話から想像したんです。それは、私がこの年齢で色々と経験した上で、社会の仕組みを知ったからこそ出てきた想像だと思いますね。


そのことを、見ている人に分かりやすく説明しようとして、あのシーンを作りました。


Q:「社会の仕組みを知ったからこそ想像できる」というのはとてもよく分かります。自分が大人になってしまったからこそ、いわゆる大人の事情、この作品でいうところの大学側の都合みたいなものが、理解できてしまうんですよね。


自分自身が世の中に対して思っている、もどかしさみたいなものを、あのシーンはとても分かりやすくストレートに表現してくれていたと思います。そういう意味でも、非常に社会的なテーマが織り込まれているなと感じました。


渡辺:そうですね。そのテーマはかなり意識しています。私ももどかしかったし、恐ろしいなっていう気持ちがずっとありました。


学生たちに話を聞くと、以前までは対話が大切にされていて、学生部長もしっかりと学生たちに向き合ってくれていたのが、突然シャットアウトして一切その対話には応じなくなったと。急激に強硬な態度に出始めたらしいんです。そもそも教育者がそんな態度でいいのかということもあるし、横暴ですよね。




一方で大学も、国の色んな方針変更によって困窮しているという現実もあり、古い寮は潰して補助金を得やすい講義棟を建てるんだと。そういう事情もわかりますが、それがそんなに簡単に決まっていいことなのかと、とても疑問に思いましたね。


このことは広く共有されて、話し合われるべきことのような気がしたんです。経済のためだけに、あの場所を若い人たちから取り上げてしまうこと自体、とても恐ろしいことだと思います。


学生たちは自分たちのユートピアを作って、そこで楽しく暮らしているように一見見えるんですが、集団で暮らしていくって結構大変なんです。何か物事を決めるにしても、多数決は決してせずに、延々と時間をかけて最後の一人まで納得するように話し合う。これって大変な労力ですよね。だけどこういうことを、めんどくさがらずにきちんとやる態度って社会に必要だと思うんです。


私なんかそういうことを今までサボって生きてきたので、いざという時に全然役に立たないんですよ(笑)。こんな自分みたいな人間ばっかりだったら、社会はどんどん脆弱になっていきますよね。


若い時に、一生懸命悩んだり試行錯誤ができる場の存在というのは、社会にとってもありがたいし、それを守ることは大人の大事な役割なのではないでしょうか。奪ってしまうのは簡単かもしれないけれど、再び作るのには大変な時間がかかります。建物だけ与えればいいというものではない。これまで受け継がれて来たもののサイクルを断ってしまうと、そう簡単には立ち上がれないんですよね。



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