“哲学”の不在
Q:ドラマ放送時から多くのファンの方がいて、こうして映画として劇場で上映するまでになりました。多くの人を惹き付けた、この作品が持つ魅力とはなんでしょうか。
渡辺:やっぱり、同じような危機感を持った方がいたということだと思います。初回放送時の視聴率は全然大したことなかったですし、ドラマとしても小さな存在なのですが、頂く反応の一つ一つが本当に強かった印象があります。
また、その後も色々と有機的に広がっていきましたね。学生寮のOBの方々が『ワンダーウォール』のイベントに来て話を聞いてくださいました。彼らは、もう卒業して後輩たちにバトンを渡した立場なので、寮のことを大事に思いながらもどこか封印していたところがあったそうなんです。ですが、ドラマを見て「これはもう封印しなくていいんだ」と、自分たちの気持ちに素直になって、寮を応援しようと動き始めてくださったそうなんです。
見た方の中に、それぞれのアクションが生まれていくのは、とても嬉しいですね。この一つの動きがまた次のことに繋がっていくかもしれないし、どんどん広がっていくといいですよね。
Q:私もあのドラマを見た後は、『ワンダーウォール』写真展に、つい行ってしまったのですが、何だかそういう引力はあった気がしますね。気持ちを共有したいというか、少しでも多くの人に勧めなくてはと、衝動に駆られていました(笑)。それが必要だと思わせる作品だったと思います。
渡辺:ありがとうございます。そうですよね。色んな方がそういう風に思ってくださって、色々と繋がり始めていますね。今はこの繋がりをさらに広げていきたいと思っています。
Q:このコロナウイルス禍で、世の中に多大な影響が出ています。映画界も例外ではありません。最後に今の思いをお聞かせください。
渡辺:今後は、本当に大切なのは何かということ、そしてそれを守っていくにはどうしたらいいのかということについて、社会全体で考えなければならないんでしょうね。
これまでずっと経済優先で来てしまったのは、そこに“哲学”が不在だったからだと思うんです。今の社会において、やっぱりもう一度“哲学”を思い出すということが、まず必要なのではないでしょうか。そしてさらにその“哲学”を発見していくことも重要となってきますよね。
もちろんこれはひとりの力では出来ないので、きっといろんな人とたくさん話し合っていくことが、とても大事になってくるんだと思っています。
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脚本:渡辺あや
映画『ジョゼと虎と魚たち』(03/犬童一心監督)で脚本家デビュー。主な脚本作品に『火の魚』(09/NHK広島)、『その街のこども』(10/NHK大阪)、連続テレビ小説『カーネーション』(2011/NHK)、映画『天然コケッコー」(07/山下敦弘監督)『メゾン・ド・ヒミコ』(05/犬童一心監督)『合葬』(15/小林達夫監督)など。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『ワンダーウォール 劇場版』
出町座先行公開中&6月19日(金)シネマカリテほか全国順次ロードショー
(c)2018 NHK
配給:SPOTTED PRODUCTIONS