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タイムマシン・デロリアンの最後のエネルギー【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.45】

タイムマシン・デロリアンの最後のエネルギー【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.45】

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クララを死なせようとする歴史の動き





 てっきりクララが命を落とすタイミングというのは、ヒルバレーにやってきてすぐ、マーティとドクが助けたあの時だけだと勝手に思い込んでいたが、きっとそうではないのだろう。そもそもなぜクララがひとりで馬車を走らせていたかというと、市長に新任の教師を駅まで迎えに行くよう頼まれたにも関わらず、マーティとタイムトラベルの方法を模索するのを優先したドクが、馬車の手配だけして放置してしまったからだ。しかし、これはマーティが1885年にやってきたせいでもある。少し読みづらくなりそうなので、ここで主な世界線に呼び名をつけたい。


 まずドクもマーティも来なかった本来の1885年をルートA。次にドクがひとりでやってきて、マーティに手紙を書いたあとでタネンに殺されてしまうバージョンをルートB。そしてそのルートBの運命からドクを助けるためにマーティが駆けつけたバージョン(パート3本編)をルートCとしてみる。


 すでに書いたように、ルートCのクララは渓谷からの墜落をひとまず免れる。問題のドクの墓標はルートBの結果なので、そこでのクララの死について補完しなければならない。ここからは個人的な想像も含まれるが、ルートBではドクが市長から頼まれた通りに、駅までクララを迎えに行き、そこでルートC同様クララに一目惚れして恋に落ちる。関係は深まるが(ドクがクララと出会うのはマーティへの手紙を書いたあとだが、彼女との出会いにより未来に戻るのは諦めてこの時代に残ろうという気持ちがさらに強くなっただろう)、間もなくタネンに殺され、墓標にはクララからの一文が添えられる。その後、嘆き悲しんだクララは例の渓谷から身を投げたのではないだろうか。これで辻褄が合い、渓谷の名前もクレイトンにできる。


 ただ、短期間ながらもパート3冒頭の1955年そのものがルートBの延長上であることから、すでにこの時点でマーティが教わった街の歴史が改変されており、渓谷の名前も変わっていた可能性がある。つまり、ルートBではクララが渓谷から落ちなかったという線もあり、それでこの問題は説明がつけられはするのだが、冒頭の1955年時における渓谷の名前が映像で観ている限りは確認できず(ぼくの見落としがあるかもしれないことは断っておく)、クララを暴走馬車から助け出したところで、初めてマーティも渓谷の名前に言及するので、ひとまず1955年時でも渓谷はクレイトン渓谷のままだったとしたい。


 ついでにルートAはどうだったか。暇そうな鍛冶屋(ドク)がいないので、市長は新任教師の迎えを誰にも頼めない。よってルートCのドクが当初そうしたように、馬車だけが手配され、クララがひとりで手綱を握ることに。そのあとはルートCと同じ展開で、蛇に驚いた馬が暴走し、乗り手ともども渓谷に墜落する。渓谷は墜落死した教師にちなんでクレイトン渓谷と呼ばれ、このことは100年後まで語り継がれ、高校の授業を通してマーティが知る。つまりルートCはかなりルートAに近い展開だったのではないかと考えられる。マーティが来ず、ドクさえも来なかったルートAでは、クララはヒルバレーに到着して早々、あのまま死んでいたのだ。


 ドクが迎えに来てくれるルートBではルートAより多少長生きできるが、もしぼくの想像通りドクの死のあとで自殺していたとすれば、そこにはなにか、変化を加えられた歴史が自然と元に戻ろうとする作用のようなものを感じる。ルートBのドクは気づいていなさそうだが、彼が1885年にやってきたことでクララ・クレイトンという人物の人生は大きく変わった。そもそも1885年にドクがいること自体イレギュラーなのだ。ルートBのドクが最終的に殺されてしまうのも、もしかするとルートが自然と収束しようとした結果なのかもしれない(ドクがすでにパート1で一度死を回避しているのも響いているかもしれない)。それなら、マーティの両親やビフの人生を変えた改変も、どこかで元に戻らされたのではないか?いや、それはきっと違うのだろう。少なくともジョージとロレイン、そしてビフは死の運命を回避したわけではない。人生の内容が変わっただけでその長さを変えたわけではないのだ。対する1885年のドクやクララは、存在自体に矛盾、いわゆるタイムパラドックスが生じてしまっている。ルートBでも最終的にクララはなんらかの形で命を落としただろうと考えるのはそうした理由からだ。


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