第40回すばる文学賞佳作を受賞した短編小説「えん」と、同じく短編小説「ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら」を再構築した本作は、青春映画の新たなマスターピースとも言える仕上がりとなっている。原作と監督の両方を手がけたのは、若き才能・ふくだももこ。一方、脚本を担当したのは、『リンダ リンダ リンダ』(05)、『もらとりあむタマ子』(13)などのベテラン脚本家である向井康介だ。自身の原作の映画化に際して、ふくだが脚本を手がけなかったのは意外にも思える。世代とキャリアの違う二人がどうやって出会い、どのようにして本作を作り上げていったのか?二人に話を伺った。
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小説と映画は別物
Q:世代もキャリアも違うお二人ですが、お二人の出会いについて教えてください。
向井:出会いはこの作品ですね。企画の佐々木史朗さんが、ふくださんが書かれた原作「えん」を勧めてくれて、では、ふくださんと一度お会いしましょうかと。
Q:自分の原作にもかかわらず、ふくだ監督が他の方に脚本をお願いしたのは、何か理由があるのでしょうか。
ふくだ:私も最初は、史朗さんに声をかけてもらいました。原作を映画化しようと言われたのですが、思い入れもあり自分の小説とまだそんなに距離が持てなかったので、自分では脚本は書けない旨をお伝えしました。史朗さんも同じ考えで、それで向井さんに声をかけてくださったんです。
Q:自分の原作だと、自身で脚本を書きたいのでは?と思ったのですが。
ふくだ:そうですかね?
向井:自分も最初、そのことは佐々木さんに言いましたね。ふくださんが監督をやっているのは知っていたので、ご自分で脚本を書いた方がいいんじゃないですかって。すると佐々木さんが、いや実は「えん」だけじゃなくて、もう一冊「ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら」というのがあるんだと、この二冊を一つにしたいんだと言うわけです。
二つを一つにするとなると、ふくださんの世界になりすぎるので、客観性が欲しいと。また、原作も脚本も、そして監督まで一人の人間になってしまうと、自分の世界に突っ走って、現場が相当荒れるんじゃないか、とも言っていましたね。
ふくだ:たしかに。それだと、監督の意見が絶対的になっちゃいますもんね。
向井:そうそう、そんな風に気にされていたんだと思います。それで自分も納得して引き受けました。
Q:監督が自分の世界観を突き進みたいのは当然のような気もしますが、ふくだ監督自身も客観性が必要だと判断されたんですね。
ふくだ:そうですね。単純に、二つの原作を合わせて脚本化する技術が自分に無いというのもありましたし、また、自分の中では小説と映画は別物のような気がしているんです。この原作については、いつかは映画化の話は来るかなと思っていましたが、もっと先だと考えていました。そういうこともあって、今回は自分が脚本を書かない方が、この映画にとってはいいだろうなと。そういう意識は最初から持っていましたね。
Q:小説と映画が別物だというのが意外でした。もともと映画化を前提に書かれたわけではないんですね。
ふくだ:はい。映画が前提ではないですね。小説だから書けることもあるし、映画だからできることもある。題材によってどの手法にするかは最初に考えますね。この前は演劇もやったので、何か思いついた時は、小説・映画・演劇、どれでやろうかなって選択するところからはじめます。だから、小説でやろうと思ったらあくまで小説として書くので、全然別物ですね。
Q:なるほど。全てが全て映画にしたいわけではないと。
ふくだ:何でしょうね。映画にするには、ちょっと小さすぎる物語とかあるじゃないですか。今回の「えん」もそうですが、向井さんがもう一つの原作と合わせてうまく脚本に落としこんでくれたから、ちゃんと映画になりましたが、私の中では多分作れないですね。人物の感情をメインにした作品を作りたい時は、小説の方が表現しやすいのかなと思いますね。