役者には、自分に役を近づけてほしい
Q:『星の子』での芦田愛菜さんの起用は、吉村さんのご提案とお聞きしました。
吉村:ちひろが15歳なので、プラスマイナス1歳くらいで役者さんをリサーチして、新人オーディションも念頭に入れながら探していたら……そうだ芦田愛菜さんがいるじゃないかと。
ただ、これはもう、“賭け”でしたね。芦田愛菜さんが主演級で出演されている映画って、2014年の『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』だから、みんなが最近の彼女を観ていない。
そういう意味では復帰作に近いと思いましたし、同時に受けてくれるかわからなかったから、ダメもとな部分もありました。でも、もし出てくれたらすごいことになるぞとは思っていました。
Q:大森監督は、芦田愛菜さんの出演が決まったときは、どんな感想を持ちましたか?
大森:冒頭にお話しした「ゲーム」の話ではないですが、これは面白そうだぞと思いましたね。僕も想像がつかない部分があったから。
彼女は、しっかり準備して的確な演技をやりたい人だと思うんです。でも僕としては、それだけでは満足できなかった。小説を読んで脚本を読んで準備をして……だけだと、あくまで頭で考えたものじゃないですか。さっきの“身体性”の話にも通じますが、彼女の演技からはみ出るもの、彼女にしかできないことを見たかったんです。だから、「本番では一回忘れて」とお願いしました。
「相手の顔を見たとき、或いは声を聞いたとき、あえて見ないときも、その場所でその瞬間に自分がやりたいことを大事にしてほしい」とは、ずっと言っていましたね。芦田さんも戸惑いがあったと思うけど、信じてついてきてくれました。
Q:その方法論は、『MOTHER マザー』の際もそうですし、大森監督がずっと大切にされている方法論ですよね。
大森:そうですね。よく「自分を役に近づけたい」って言うけど、僕は逆で「役を自分に近づけてほしい」って思ってるんですよ(笑)。芦田さんが思うことが、ちひろの思うこと、くらいになってほしい。
このやり方だと、役者が能動的に動けるんですよ。「ここに立って、このセリフを言って」みたいに監督が言ったことに役者が従って“受け身”になってくると、やっぱり生き生きしなくなってくる。
映画って何を撮っているかといったら、スタッフが集まって照明を当てて、カメラのフレーム越しに「俳優の息遣い」を観ていると思うんですよ。俳優の生きている姿を撮る、そこからドラマが生まれてくる。だからこそ、自分の息で、呼吸をしてほしいと思っています。
永瀬正敏さんなんて、そういうのをずっと追求している人ですしね。原田知世さんは逆に、狙いじゃない本人の不器用さとかがにじみ出てきてしまうのが、面白い。芦田さんもこういう現場でどんどん“自分”を見せてくれて、それを見ることで彼女の独りぼっちの背中を撮りたくなっていきましたね。