黒沢監督の“直し”が楽しみだった
Q:いまお話に上がった部分で気になったのですが、お三方の脚本制作の配分というのはどんな感じだったのでしょう?
黒沢:簡単に言うと、僕は何もしていないです。
濱口:そんなことないですよ(笑)!
黒沢:濱口と野原が書いてくれたものをちょこちょこっと書き加えたり、「ごめんね」と思いながら短くしたりして……。僕のところに来た時点で、もう8割がたは出来上がっていましたね。
濱口:かなり台詞も書き込んで、脚本に近い形ではありましたが、その時点ではまだプロットだったと思います。基本的には僕と野原くんで話して、それぞれにパートを振り分けて書きながら、お互いに読み手に回って意見交換して、作っていきました。そうして出来上がったものに黒沢さんからフィードバックをいただいて、「なるほど、そういう方向なのか」ということを掴みつつ、ちょっと直してまた見ていただいて……ということを繰り返していきましたね。
ただやはり、最終的には黒沢さんに自由にお直しいただく、というのが大前提でした。それが観たいわけですから。それに、自分たちが書いた脚本を黒沢さんに直してもらえる、なんて機会は学生時代もなかったですから。むしろ「黒沢さんはどう直すんだろう? どこを削るんだろう?」というのが実のところ、楽しみでしたね。
Q:じゃあ、濱口さんと野原さんの中には、一種のファン的な感情もあったんですね。
野原:ありますあります。拷問シーンとか、「こう撮るんだ!」とうれしく観ていました(笑)。
黒沢:脚本に、拷問シーンそのものはなかったんだよね。
濱口:これぞ黒沢さん!という感じでした。
黒沢:一応ね、入れておこうと思って……。
濱口:でも、黒沢さんに書き足していただいた部分よりも、尺に収めるために削る作業のほうが大変だったのではないかと思います。我々が書いた脚本は、ちょっと長め、かつ曖昧さを含んだものだったので。根幹を残していただきつつ、より明晰にしていただいて、これは今更ながら勉強になってしまいました。
野原:たぶん10シーンくらい切っていただいたと思いますね。
黒沢:尺に収めるのは、うまいもんでしょう? 特に大きな改変はせず、必要十分な長さに収める。僕が脚本でやったことはほぼそれだけかな。でも映画にとって長さは重要だよね。唯一自慢できる部分かもしれない(笑)。
濱口・野原:いやいや(笑)!