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『アイヌモシㇼ』福永壮志監督 少年の成長とアイヌ文化を交錯させ、エンターテインメントとして昇華させる【Director’s Interview Vol.86】

『アイヌモシㇼ』福永壮志監督 少年の成長とアイヌ文化を交錯させ、エンターテインメントとして昇華させる【Director’s Interview Vol.86】

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役者でない人々の「表現力」を引き出すための設定



Q:主人公の少年を演じた幹人さん、そのお母さんの絵美さん、そして幹人さんを導くデボさんはすべて、実名と役名が同じで、しかも幹人さんと絵美さんは実生活でも親子です。皆さんの出演はどのように決まったんですか?


福永:アイヌ文化をリサーチする中で、阿寒で撮影しようと決めた理由の一つは、そこに暮らす皆さんの存在です。みなさんに出演してもらって映画が成立するという確信がありました。特にデボさんや絵美さんは、アイヌであるかどうかを抜きにして、人としての魅力に溢れる特別な方々です。なので、そういった元からあるものをどれだけ脚色せずに自然に映画という形に落とし込むかを、何より最優先にして、色んなことを決めていきました。


お二人とも演技経験はないですが、歌や踊りなどいろんな表現をやってきた方達だったので下地は既にある。あとは自然体でいられるように、「本人」という設定で出てもらうとか、台詞を暗記することをお願いせずにできるだけ自分の言葉で話してもらうとか、色々な方法で実際の出来事や人物に寄り添って映画を作りました。


Q:思春期の少年を言葉少なに演じた幹人さんも本当に素晴らしいと思いました。


福永:自分は、絵美さんを通じて阿寒に通いだしたので、その息子の幹人くんともいつも接していたんです。すごく特別な子だなと思っていて、実際も口数はそんなに多くないけど、すごく感受性が豊かで、いろんなことを考えて感じている子なんです。主役は彼意外考えられませんでしたね。




Q:アイヌの少年を主人公にしたストーリーというのは最初からの構想ですか?


福永:いえ、途中からなんです。当初は青年の話で、その主人公候補は色々な場所で探したんですが、適役が見つからない。阿寒で撮るというのは決めていて、主人公もやはりそこに住んでいる人でキャスティングすることにしました。阿寒にいる大抵の方は、中学生以下か40代以上という状況の中、少年の話にすることに決めました。


でも、そのほうが、アイヌかどうか関係なく、誰もが抱える思春期のもやもやした気持ちだったり、自分の世界と大人の世界とのギャップだったりを通して、もっと共感しやすい物語が伝えられると思いました。


Q:ドキュメンタリーと劇映画、2つの視点の虚実が入り混じるのがユニークだと思いますが、撮影の仕方で工夫されたことは?


福永:まずクルーの人数を最小限にしました。撮影・照明のスタッフは3人しかいません。撮影監督もアメリカ人で、アイヌに対して先入観のない人にお願いしました。そういうのがあると絶対に画に出ますし、カメラが回ってない状態でも、遠慮や気遣いみたいなものが伝わってしまうので。そうなると距離が一向に縮まらないし、良いものは撮れない。

  

現場の雰囲気も、体育会系のカチっとした緊張感のあるものだと、目指す方向とズレてしまうので、大きな声をあげたりもしません。段取りの確認はしますけど、リハーサルもやっていません。出演者には割と自由に動いてもらって、台詞を覚えることをお願いせずにアドリブを積極的に入れてもらいました。そういう環境にして、カメラも臨機応変に対応できる姿勢で臨みました。



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