「今まで作られていないけど、作られるべきと思える題材」への挑戦
Q:劇中ではあからさまな差別は描かれませんが、観光客が土産物店を経営する絵美さんに「あなたアイヌなの?」とか、「日本語上手ですね」などと言うシーンがあります。一歩間違えれば自分も同じことをやりかねない恐怖もあって、すごく胸に刺さりました。
福永:アイヌの映画を作っていると言うと、「本当にまだ森の奥に住んでいる人がいるのか」、「アイヌ語喋っている人は何人ぐらいいるんだ」とか「純潔なアイヌってまだいるのか」とか、そういうことを悪意無く言う人はたくさんいます。それはやっぱり無知から来ているわけで、「知る」事によって回避できる。映画がそこに少しでも近づけるきっかけになればいいなと思います。
Q:監督は題材を選ぶ時、常にマイノリティに視線を向けることを意識しているのでしょうか。
福永:それだけとは思わないですけど、やっぱりそこに特別な思いはあります。海外で生活をしたことで、アジア人として、日本人として差別や偏見も受けたし、それでマイノリティという意識がすごく強くなったというのもあります。
映画はもちろん好きでやっているんですが、僕の場合は自己表現とか、そういうモチベーションで作っていなくて、それより自分を超える何かしらの価値と言うか、その作品が作られることで、少しでも良い影響があるんじゃないかと信じられるもの。そういう題材を、できるだけ見つけてやりたいし、そう思えるから頑張れるという所があります。
そうすると、これまで数え切れないほど作られてきた題材、例えばラブコメでもなんでもいいですが、そういったものを敢えて自分が労力を使ってやろうとは思わないんです。
それより今まで作られていないけど、作られるべきなんじゃないか、と思える題材をできるだけ選んで行こうと。するとどうしてもマイノリティに意識が向いていきますね。