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『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督の“映画に挑む覚悟”を変えた、脚本家・坂元裕二の存在【Director's Interview Vol.103】

『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督の“映画に挑む覚悟”を変えた、脚本家・坂元裕二の存在【Director's Interview Vol.103】

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「ふたりだけにしかわからない会話」を引き立たせる、固有名詞



Q:これほど固有名詞が多い作品も珍しいかと思いますが、ある種の“縛り”が強い本作に挑むにあたって、土井監督が特に留意した部分などはありますか?


土井:僕自身がそのことに引きずられ過ぎないようにしなければいけないな、とは思っていましたね。好きな人たちにはものすごく刺さるけど、それ以外の人たちを排除してしまうものにはしたくなかったから。


僕自身も30年くらい前のサブカル青年の端くれではあったので非常に心は動くんですが(笑)、ニュートラルに見つめることに徹しました。


Q:サブカルチャー好きだからこそ入り込み過ぎないように、「人を見つめる」という立ち位置で作っていったのですね。


土井:そうですね。例えば劇中に「セロの高城さんが阿佐ヶ谷でやってる店……」「ロジですか」という絹と麦のやり取りがありますが、きっとほとんどの人には何の会話をしているのかわからないと思うんです。でもそれでいいんじゃないかなという話を坂元さんとしました。


僕が「わからなくてもいいですか?」と聞いたら、「むしろ彼らだけにわかることで、ふたりがつながっているということが大事だから、見ている全ての人に意味が理解される必要はないです」とおっしゃっていて。それで、僕の中でも描くべきことがクリアに見えたというか、腹が決まったところはありましたね。


(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会


Q:わかる人にだけわかる会話をしているにも関わらず、観る側が普遍的なラブストーリーとして受け止められるのは、面白いですね。


土井:例えばプロレスが好きな人同士が趣味をきっかけにつながったり、ある種の勉強や研究を通して知り合いになったりもしますよね。それと同じように、今回描かれる「サブカルチャー」は一つのアイテムであって、それ自体を描くものではないんです。


なんというか、麦も絹もいわゆる「映画の主人公」にならなさそうなタイプじゃないですか。僕は、この作品はふたりの人生の20代の5年間の中で起こった出来事を描いた物語だとシンプルに考えていて、ラブストーリーではありながらも2020年に生きている人たちの青春映画だと思っています。


Q:土井監督ご自身も、日常を描いた作品はお好きですか?


土井:そうですね。外出自粛期間中には川島雄三監督のアーカイブをひたすら観ていましたし、成瀬巳喜男監督や小津安二郎監督の作品など、市井の人々の日常の中にちゃんとドラマがある日本映画には昔から心を惹かれます。


最近だと、Netflix映画の『マリッジ・ストーリー』(19)は、もしかしたら『花束みたいな恋をした』が描こうとしているものにすごく近いのかな?とは思いました。ただ、僕個人は映画って色々なものがあっていいなと思いますし、ジャンルに限らず割と何でも好きですね。




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