1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督の“映画に挑む覚悟”を変えた、脚本家・坂元裕二の存在【Director's Interview Vol.103】
『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督の“映画に挑む覚悟”を変えた、脚本家・坂元裕二の存在【Director's Interview Vol.103】

『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督の“映画に挑む覚悟”を変えた、脚本家・坂元裕二の存在【Director's Interview Vol.103】

PAGES


いまの日本映画では希少な、ある種の“問題作”になった



Q:菅田将暉さんと有村架純さんの自然体の演技も素晴らしかったのですが、撮影中はどんな言葉をかけたのでしょうか。


土井:菅田くんも有村さんも、僕にものすごく演出をされたという感覚がないと思います。毎日毎日、日常のあるシーンをとにかく積み重ねていっただけなんですよね。僕からは「そこで起きることに対する気持ちに対する反応や表出は、そこに嘘がなければいいよ」と伝えたくらいで、ふたりとも役に自然に入り込んでいました。


もちろん台本を持っているから、これから先どうなっていくかはわかっていただろうけど、菅田くんも有村さんも演じている最中はあまりそういうことを考えていなかったと思います。「今日ふたりの間にどういうことが起こるのか」だけを考えるという感覚でした。


僕自身は、全体の地図を見ながら細かくチューニングする部分はありましたが、演出的に導いたというよりは、ふたりの中で嘘がなくなるような場所と時間をちゃんと作っていく、という感じでした。



(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会


Q:「嘘をなくしていく」という考え方で言うと、坂元さんの脚本は言葉が非常に強いぶん、映像に落とし込んでいく際になじませる行程が大変なのではないかと感じたのですが、そのあたりはいかがでしょう?


土井:日記のような脚本で、前半は特にモノローグ主体で展開していくので、ある種の難しさは感じていましたね。モノローグのシーンのリズムと台詞のシーンのリズムのバランスをどう作っていくかは、とても注意したところです。


例えば、シーンによっては1行しかないものもあれば、数ページにわたるものもある。その緩急の面白さを損なわずに、むしろ映像だからこその表現にもっていくこと。そのことを常に考えていました。



Q:そういったご苦労があったうえで、最終的に「自分らしさが宿った」という感覚になるのは、とても興味深いです。


土井:「自分らしさ」が何かはまだうまく言語化できないのですが(苦笑)、ちゃんと細部を見つめれば、どんな些細なことでも、ありふれた人たちの物語でも、ドラマが生まれるんだ、ということを今回改めて感じましたね。


それこそが本作のテーマだと思いますし、そういった意味では、なかなかいまの日本映画にはない、ある種の問題作になるんじゃないかと思っています(笑)。



『花束みたいな恋をした』を今すぐ予約する↓





 

監督:土井裕泰

1964年生まれ、広島県出身。早稲田大学在学中に劇団山の手事情社の初期メンバーとして舞台に出演。卒業後はTBS に入社し、テレビドラマのディレクターとして数々の話題作を手がける。聴覚障害者の画家と女優志望の劇団員の純愛を描いた「愛していると言ってくれ」(95)は第33回ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞し、DREAMS COME TRUE の主題歌「LOVE LOVE LOVE」も250万枚の大ヒットとなる。同作は2020年のコロナ禍で「2020特別版」として25年ぶりに再放送され、主演の豊川悦司と常盤貴子のリモート同窓会対談も実現。時を超えて熱い反響を呼んだ。2008年の「猟奇的な彼女」で初めて坂元裕二の脚本の演出を担当し、再タッグとなった「カルテット」(17)ではチーフプロデューサーもつとめた。2004 年には『いま、会いにゆきます』で映画監督業にも進出。『映画 ビリギャル』(15)では主演に有村架純をむかえ、興行収入28億超の大ヒットを記録しただけでなく、第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞および新人俳優賞、第58回ブルーリボン賞主演女優賞、第40回報知映画賞助演女優賞、第7回TAMA 映画賞最優秀新進男優賞、第25回日本映画批評家大賞助演男優賞、2015年度新藤兼人賞プロデューサー賞など、キャストやプロデューサーに多数の受賞をもたらした。また、近作『罪の声』(20)では報知映画賞の作品賞をはじめ、主演男優賞、助演男優賞の3部門を制覇している。その他の主な代表作はドラマ「青い鳥」(97)「ビューティフルライフ」(00)「GOOD LUCK!!」(03)「マンハッタンラブストーリー」(03)「オレンジデイズ」(04)「空飛ぶ広報室」(13)「コウノドリ」(15、17)「重版出来!」「逃げるは恥だが役に立つ」(16)「この世界の片隅に」(18)「凪のお暇」(19)「あしたの家族」(20)、映画『涙そうそう』(06)『ハナミズキ』(10)『麒麟の翼~劇場版・新参者~』(12)など。



取材・文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema





『花束みたいな恋をした』

2021年1月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督の“映画に挑む覚悟”を変えた、脚本家・坂元裕二の存在【Director's Interview Vol.103】