Index
目を見張る豪華絵本のようなアニメーション
前回の『ジャイアント・ピーチ』のほかにももう一本、イギリスの児童文学作家ロアルド・ダール原作のストップモーション・アニメがある。家族のために農場から盗みを働くお父さん狐の物語「すばらしき父さん狐」を、ウェス・アンダーソン監督がストップモーションで映像化した『ファンタスティック Mr.FOX』である。
家庭に落ち着き、そこそこの仕事をこなしてなに不自由なく暮らしていたフォックス氏だったが、華麗な家畜泥棒だった若い頃の理想を追って再び泥棒稼業に手を染めてしまう。夜毎近所にある3つの農場から鶏やガチョウ、リンゴ酒をくすねては昔の感覚を取り戻し、家族も喜ばせて生き生きとするフォックス氏だったが、ついに3人の農場主の怒りを買って恐ろしい反撃を受けることに……。
原作はもっとシンプルで、鉄砲やトラクターで狐の巣を追い詰めた気になっている農場主を尻目に、狐たちが地中を掘り進んで侵入した農場からどんどん食べ物を頂戴し、動物の仲間たちにご馳走するという痛快な短いお話。映画ではここに、フォックス氏が追い求める理想や、彼に翻弄される周囲との関係、原作よりかなり凶悪な農場主たちとの戦いなどが加わり、ストップモーションという手法も手伝ってとても楽しい作品となっている。父さん狐を盗みに衝き動かす野生の本能を、家庭を持ったフォックス氏が抱くやや身勝手な理想に重ねて、人間的なドラマに仕上げているところが見事である。
ウェス・アンダーソン作品と言えば考え抜かれたイラストレーションのような構図が特徴的だが、人形アニメの本作では特にそれが顕著で、人形だけでなく小道具や背景など、何度観ても飽きない楽しさでいっぱいだ。『ジャイアント・ピーチ』が仕掛け絵本なら、こちらは細密画が連続する豪華な絵本といった具合。ちなみに『ジャイアント・ピーチ』の監督ヘンリー・セリックは、ウェスの『ライフ・アクアティック』でストップモーション・アニメパートを手がけており、本作も当初は彼らが共同で企画していたもの。最終的にセリックはニール・ゲイマン原作のストップモーション作品『コララインとボタンの魔女』のためにプロジェクトを抜けてスタジオライカへと移り、奇しくもこれが本作と同年公開となったという縁もある。
好きな場面(というより背景)を挙げればきりがない。狐一家の暮らす家の内装、フォックス氏の書斎や息子の子ども部屋(太陽系儀が吊るされ、鉄道模型が走る)、学校の化学実験室(用具を入れた段ボールに謎の日本語が細かく書いてある)、アナグマの事務所(机にはディクタフォン、背後にはiMacと思しきコンピュータさえある)、動物たちと農場主たちの戦いの場となる街の通り(渋いステーションワゴンが停まり、コインランドリーに並ぶ洗濯機の色が綺麗)、そして狐一家がたどり着くスーパーマーケット(とにかく売り場が色とりどり)……。
しかし、やはり触れておきたいのは主演となる人形たちである。