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『ファンタスティック Mr.FOX』のすばらしき質感【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.54】

『ファンタスティック Mr.FOX』のすばらしき質感【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.54】

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動物の存在感が宿る人形たち




 本作の動物たちのいちばんの特徴はやはり植毛で表現された毛並みだろう。二本足で立っている以外に造形自体のデフォルメはあまりなく、そのせいかどこか剥製が服を着ているようなリアルさが感じられる。口の中には細かく尖った歯列さえ作られており、しゃべっている合間にこれがちらちら覗いたり、怒ったときには剥き出しになる。擬人化されながらも時折見せるそうした表情がギャップとなり、野生本能と折り合いをつけていく物語とぴったり合っていると思う。言うなれば、擬人化という様式までもストーリーの仕掛けとなっているのだ。


 洒落た服装に身を包んだフォックス氏(監督自身とお揃いのスーツを着ている)が鶏小屋を襲い、犠牲者を口にくわえて出てくる姿などはとても象徴的。どれだけ擬人化されていようとも動物であるということを見る者に思い出させ、それは平穏な生活を得ながらも生き甲斐である盗み(=野生本能)へと還っていこうとするフォックス氏の心境に重なる。だからこそ本作の動物たちはリアルである必要があるのだ。


 そしてリアルな造形には、動物そのもののフォルムやかわいさがしっかり宿る。そこは『ジャイアント・ピーチ』の虫たちが、脚の数など省略せずともちゃんとかわいさを持っているのと同じだろう。


 植毛された毛並みが表情を変えるたびに、もしゃもしゃとややランダムに動くところなどは、コマ撮りの雰囲気が存分に出ていてかわいらしい。同年にもうひとつのストップモーションの傑作『 コララインとボタンの魔女』を送り出したライカが、その後3Dプリンターによって綺麗に成形された表情パーツの量産や、デジタル補正によってストップモーションの映像をどんどんCGアニメのような滑らかさに近づけていったのとは、対照的な趣きだ。


 ストップモーションはCGの美しさを、CGアニメの方はハイクオリティのストップモーションかのような質感を得たことで、今やそのふたつは交差している。技術の進歩や手法の応用にはワクワクするものがあるが、同時にフォックス氏のもしゃもしゃと動く毛並みにもコマ撮りの特性を生かした魅力があり、実際に小さな人形が1フレームずつ撮られているという質感に安心するのも確かである。またこの特徴的な毛並みの雰囲気は、ウェスのストップモーション作品第2弾『犬ヶ島』にも引き継がれている。





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