ワークショップから生まれるキャラクター
Q:橋口作品には、魅力あふれるキャラクターがたくさん出てきますが、キャラクターの配置やバランスはどのように考えて脚本を作っていくのでしょうか。
橋口:普段からワークショップで無名の役者たちと接することが多くて、中には事務所にも入っていないような自称役者もいるのですが、それでもみんな面白くて個性があるんです。事務所に入って、本格的に役者の仕事をすればいいのにと思うくらいなのですが、なかなかチャンスがないんですよね。今回はそういう方たちを使えないかなと思いました。ギャラはそんなにお支払いできませんが、地上波のオンエアで自分の顔が世間に出ていくのは、何よりもいい機会になりますしね。そんなわけで、ワークショップで知り合った10人くらいの方々に出てもらいました。
例えば、第8話「鍋の中」で、“もぐら”という名前のキャラクターが出てくるのですが、彼はワークショップですごく面白かったんですよ。こういう強烈なキャラクターは、オーディションで選ぼうと思ったって、なかなか出会えるような人じゃない。そういう面白くて、得難いキャラクターを何とか表に出してあげたいなと。それで、「あ、彼もいた、彼女もいた。」みたいな感じで、ワークショップで知り合った方を当てはめながら、脚本を作った部分はありますね。
『初情事まであと1時間』©「初情事まであと1時間」製作委員会
Q:第1話「心の容れ物」では、カスタムドール愛好家のオフ会が出てきたりと、意外なシチュエーションも印象的ですが、その辺りは普段どうやって情報収集されているのでしょうか。
橋口:以前、『ゼンタイ』(13)という、全身タイツの話をやったことがあるのですが、そのときの取材で、色んな趣味の方が集まるという六本木のバーに行ったところ、ドールを連れた紳士に出会ったんです。年齢は30代半ばで、三つ揃えのスーツをピシッと着て、白い手袋をして、大切そうにドールをケースから出し、隣に座らせてゆったりお酒を嗜んでいる。話を伺うと、家にはドールが12体あって、全部名前が付いているとのこと。彼は、仕事が終わって家に帰ると、ガラスケースからドールを取り出して、下着から靴下からパンティストッキングまで全部お着替えさせて、髪の毛をとかしてあげて、またケースに入れて「おやすみ」と声を掛ける。それを毎日12体全部お世話しているとのことでした。
「はぁ、そうですか…」と、その時はそれで終わったのですが、今回はこれで何か一つ作れないかなと。今回はちょっとエッチな話だから、不倫カップルがラブホに入って行くまで1時間というよりも、「ちょっと」ひねりがあった方が面白いのではと思ったんです。それで改めて取材して、詳しい方にお話をうかがったのですが、ドールの世界はなかなか奥が深くてですね…。これは30分枠のドラマでは語りきれないなと思い、公民館みたいなところでダメダメな感じでオフ会をやっていて、そこに人形を持ち寄るという程度にしておきました。そうすると予算もそれほどかからないですから。もうあれ以上踏み込むとですね、ドールの世界は奥が深くてですね…(笑)。