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『初情事まであと1時間』橋口亮輔監督が手がける、橋口テイストに溢れたドラマ【Director’s Interview Vol.135】

『初情事まであと1時間』橋口亮輔監督が手がける、橋口テイストに溢れたドラマ【Director’s Interview Vol.135】

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橋口作品における食事シーン



Q:橋口作品の食事シーンはコメディタッチで長回しの印象があって、いつも楽しませてもらっています。そして今回の第8話は「鍋の中」というタイトルの通り、みんなで鍋を囲むシーンがあります。今回も面白かったのですが、長回しではないですよね。


橋口:編集でカットは割りましたが、あそこは撮影で唯一長かったシーンです。リハーサルの時に「鍋のシーンは1カットで行くからね。」って言ったら、みんな「えーっ」って驚いていましたが、構わず「よろしく」って撮りました(笑)。でもみんな、セリフもちゃんと入っていて、しっかりやっていました。花恋ちゃんなんて最後にアドリブをいれたりして、度胸が座ってるなと思いましたね。


Q:みんなで鍋を囲んで、本音と探りあいが交錯するような面白いシーンになっていました。食事ってそういうシチュエーションに落としやすいのでしょうか。


橋口:実はこの話は元ネタがありまして。1回目の緊急事態宣言が出る前に、プロデューサーと打合せをして、居酒屋で飲んでいたのですが、その時の隣の席の会話が面白くて。それを参考にしたんです。


隣の席は、女性一人と男性二人だったのですが、その男性二人が神の啓示を受けるかの如く、恋愛マスター気取りの女性から教えを請うているんですよ。その女性が「性格悪いとか、ブスとか言われた方が女って嬉しいの。女ってそうだから」とか言って、男性たちが「ああ、そうなんだぁ」って聞いているわけです。


そんなやりとりがずっと隣から聞こえてきて、もうおかしくて…(笑)。だからその場で、「こんな話にすると面白そうだね」って決めたんです。



『初情事まであと1時間』©「初情事まであと1時間」製作委員会


Q:先にも言いましたが、『二十才の微熱』(93)のときの先輩家族との食事、『ハッシュ!』(01)の実家での食事、『ぐるりのこと。』(08)のとんかつ屋など、橋口作品にはすごく印象的な食事シーンが多いです。意識的にシーンに取り入れられているのでしょうか。


橋口:日常描写のシーンがもともと好きですね。特に今挙げてくださったようなシーンは、テーブルではなく、和室でちゃぶ台を囲んでいるシーンの方が多いです。ああいうシーンを撮っていると安心しますよね。


「そこ、こうやって」「ここ並んでください」「それでこの時にこう返して」といちいち細かくやっていると、演出していて楽しいんです。もしかすると役者さんの中には、「細かいなぁ」って舌打ちしている方もいるかもしれません(笑)。でもそれでも、役者さんたちが“ノって”演じだすと、いつまででも見ていたくなります。


たとえば、『ハッシュ!』で秋野暢子さんと光石研さんと田辺誠一さんが、京都の実家での食事しているシーン。田辺さんがちょっと恐縮しながらビールを注いでもらって、みんなが「かぁーっ」と一息で飲んだり、秋野さんが「ポーンっ」って電気釜をたたいたり。この「ポーンっ」は秋野さんのアドリブなのですが、そういうのを見ていると楽しくってしょうがないですね。なんでもない日常のシーンなのに、「あぁ、この家族ってこうなんだな」みたいなものが、一瞬見え隠れする。食べるとか、あるいはセックスするとか、人間の個性や本性が垣間見えるところが好きなんですね。



『初情事まであと1時間』©「初情事まであと1時間」製作委員会


ただ今回、僕はセックスシーンって撮れないなと思ってしまいました。「心の容れ物」で工藤阿須加くんと臼田あさ美さんが、まさに“絡んで”いるシーンを撮ってる時に、「カット!」って言わずに、なぜか「すいません!」って言っちゃたんです(笑)。お互いのことをそれほど知らない人間同士が、大勢のスタッフの前で半裸で抱き合って絡み合っている。映画って変な世界ですよね。それで撮りながら「申し訳ないな…」って思っていたので、つい口に出ちゃったんです。セックスシーンは苦手かもなと思いましたね。



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