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『由宇子の天秤』春本雄二郎監督 シリアスな社会性と娯楽性を高度に一致させた今年度最重要作は、いかにして生み出されたのか【Director’s Interview Vol.141】

『由宇子の天秤』春本雄二郎監督 シリアスな社会性と娯楽性を高度に一致させた今年度最重要作は、いかにして生み出されたのか【Director’s Interview Vol.141】

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観客の想像力を刺激する撮影スタイル



Q:撮影で印象的だったのは、物の寄り(クローズショット)をほとんど撮らないことです。登場人物が手に何かを持って見ていると、観客には「それを見たい」と思う欲求が生まれますが、そういう場面でも、寄らない。


春本:助監督でテレビドラマをずっとやっていたので、もう何かあったら寄りを撮っていたんですよ。でもそういうのって嫌で飽き飽きしていて。「それ寄ったところでどうなの?」みたいなのあるじゃないですか(笑)。むしろ、登場人物が何を見ているのか、表情から想像してもらえばいいのではないかと思っています。


Q:すごく、よくわかります。


春本:映画はスクリーンで上映されるので、クローズアップなんか入れたらめちゃめちゃデカいんですよ。あれはテレビの発想なんですよ。引き(ロングショット)で問題なく伝わるだろうと。


Q:かなり重要なシーンでは、人物の表情は見せず、ロングでずっと後ろ姿を見せていましたね。


春本:あれはわざとですね。今回は人物の「背中」を多用しています。


Q:主人公と父の緊張感ある会話のシーンでもロングショットを貫いていて、お互いの表情に寄らないようにしていますね。


春本:そうですね。何回も寄ると、寄りたい所で効かないんですよね。


Q:重要なクローズショットが流れてしまうということですね。


春本:そうです。なぜ寄ったのかっていうのを観客は無意識のうちに感じ取るわけです。でもクローズショットを多用すると、それが当たり前になっちゃって、重要なショットが効果的でなくなってしまうんです。



『由宇子の天秤』© 2020 映画工房春組 合同会社


Q:カメラの動きも、リハーサルの時に決めてしまうそうですね。 


春本:予算がないので、現場でカメラ位置を検討している暇がないんです。撮影日数も限られているから、現場で「えーと、じゃあこのカット、どこだったら撮れる?」みたいなことをやっている暇がない。


Q:アングルを決めたり、照明を決めたりする時間がもったいないんですね。


春本:そう!もったいない!(笑)


Q:実質、何日間ぐらいで撮影されたんですか。


春本:撮休をのぞいた実数で言うと14日間ですね。でもこれ、粗編集したら3時間あったんです。3時間を14日で撮るのは至難の技なんですよ。最低でも3週間は必要になる。


Q:じゃあ照明は、ほぼ自然光で撮っているんですか?


春本:室内はちゃんと照明をしていますね。ナイトシーンとかは特に。ただやっぱり1シーンを1カットで撮る場合や、カメラをブン回すところがあったので、照明部さん的には限界があって。


Q:照明機材が入る場所がないんですね。


春本:だから、照明部さんを結構泣かせたかもしれないです。ただ僕は一作目の時からそういう撮り方をしているので、「そうなるよ」っていうのは前からスタッフに言っていました。




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