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『由宇子の天秤』春本雄二郎監督 シリアスな社会性と娯楽性を高度に一致させた今年度最重要作は、いかにして生み出されたのか【Director’s Interview Vol.141】

『由宇子の天秤』春本雄二郎監督 シリアスな社会性と娯楽性を高度に一致させた今年度最重要作は、いかにして生み出されたのか【Director’s Interview Vol.141】

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現場に活かされた京都での助監督経験



Q:春本監督は日芸映画学科ご出身で、卒業後は松竹京都撮影所で助監督をされていたそうですが、実は私も京都の東映太秦撮影所で小道具のバイトをしてたんです。


春本:え!本当ですか、じゃあ、〇〇さんとか知りませんか? 


Q:〇〇さん、知ってますよ!お元気ですか?

※しばし京都の撮影所の話でもりあがる…


Q:……話が逸れてしまい、すみません(笑)。監督は「鬼平犯科帳」など時代劇の現場で助監督をされたおかげで、すごく撮影の段取りが上手くなったそうですね。


春本:京都では、監督のために他のスタッフが何をできるかってことを、すごく学びましたね。監督がやりたいことを叶えてあげるために自分の演出プランを提示するんです。全てのスタッフが演出プランを持っているっていうのはすごいなと思いました。小道具さんが特にやばいですよ、京都って。


Q:こだわりがすごいですよね。


春本:考えていることがすごく深いんですよ。その物語のキャラクターの背景まで考えて小道具を用意するから、助監督として太刀打ちするのは本当に大変です。「(小道具を見せながら)これや、春本。分かるか?」とか言われて。「はい、分かります!」、「嘘つけ」みたいな(笑)。


Q:次回作の構想はいかがですか?


春本:実はもう第三作の企画が、釜山国際映画祭併設マーケット「Asian Project Market(APM)」でノミネートされているんです。そこで、海外から製作資金を集めるために交渉していきます。


Q:監督は「商業映画では自分がやりたいことはできない」という意味のことを以前インタビューでおっしゃっていました。でも私は本作を拝見して、春本さんにこそ、エンタメ映画を撮って欲しいと思いました。


春本:別にエンターテインメントを否定しているわけではなくて、やっぱりレイヤーの深いものを作りたいというのはあります。映画の見方を知らない人でも、楽しめるレイヤーが表層の浅い部分にあって、さらに、もっと深く読み解きたい人たちにも、深いレイヤーが用意されている、そういう映画を作っていきたいと思いますね。



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監督・脚本・編集:春本雄二郎

1978年生まれ。神戸市出身。日大芸術学部映画学科卒業後、映画やドラマの現場で10年間演出部として働くも、現在の日本の商業スタイルでは自分の理想とする表現はできないと判断し、独立映画製作の道を選ぶ。自身で脚本・プロデュースした初監督長編映画『かぞくへ』(2016)は、第29回東京国際映画祭に公式出品され、フランスで開催された第23回ヴズール国際アジア映画祭では、NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)など3冠を受賞。ドイツ、オランダ、ポーランド、韓国の映画祭でも上映され、2018年に全国公開される。2019年、第33回高崎映画祭にて新進監督グランプリを受賞。2018年に、独立映画製作団体『映画工房春組』を立ち上げ、「映画監督と市民が直につながった映画製作」を掲げ、活動をスタート。2019年「かぞくへ」製作以前から執筆・完成していた脚本『由宇子の天秤』を映画化するため、再び自身でプロデューサーとなり、映画監督の片渕須直と松島哲也からの支援を受けながら、製作資金、スタッフ、キャストを集め、同年12月に撮影。2020年に完成した同作は、世界三大映画祭の1つ、第71回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門にノミネートされる。同映画祭のアーティスティック・ディレクター、カルロ・シャトリアンからは「才能があり、映画製作について極めてクリアな考えを持った監督だ」と評される。さらに韓国で開催されるアジア最大かつ唯一のメジャー国際映画祭、第25回釜山国際映画祭、コンペティション部門で日本人として12年ぶり、史上3人目となる最高賞・ニューカレンツアワードを受賞。また、中国の世界的映画監督ジャ・ジャンクーが設立の平遥国際映画祭では審査員賞と観客賞の2冠を達成。第21回東京フィルメックス、コンペティション部門にも選出され、学生審査員賞を受賞。そしてスペインで開催の第20回ラス・パルマス国際映画祭では、ジェンダー平等の意識に貢献したとしてCIMA審査員賞を受賞する。2021年現在は、釜山で開催の第15回アジア・フィルム・アワード最優秀新人監督賞候補にノミネートされている。また長編第3作「サイレン・バニッシズ」が同じく釜山で開催されるアジア最大のプロジェクトマーケット「APM 2021」のオフィシャル・プロジェクトとして、日本作品で唯一選出され、国際共同製作の準備を進めながら、自身の演技ワークショップで幅広く俳優を求めている。



取材・文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。




『由宇子の天秤』

9/17(金)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー

配給:ビターズ・エンド

© 2020 映画工房春組 合同会社

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