『由宇子の天秤』春本雄二郎監督 シリアスな社会性と娯楽性を高度に一致させた今年度最重要作は、いかにして生み出されたのか【Director’s Interview Vol.141】
映画製作を後押してくれた街、群馬県高崎市
Q:撮影は群馬県高崎市で行われたそうですが、何か理由があったんですか?
春本:この映画の脚本をフィルメックス新人監督賞に応募して、映画の資金を集めようとしたんですが、ダメだったんです。結局自分でお金を集めて撮ることになったんですが、そうなると、なるべくロケ費とか宿泊費を抑えながら、制作的に応援をしてくれる所で合宿みたいに撮影するしかないと。そうなった時に、「高崎じゃない?」という話になったんです。実は前作の『かぞくへ』をシネマテークたかさきというミニシアターで上映していただいて、総支配人の志尾睦子さんがすごく気に入ってくださったんです。2019年の、高崎映画祭でも『かぞくへ』を招待してもらい、新進監督グランプリという賞を頂きました。その時に志尾さんが「次回作を撮るなら、うちもフィルムコミッションをやっているので、検討してみてください」と言ってくださったのを思い出したんです。
Q:では撮影は全て高崎ですか?
春本:9割5分高崎ですね。高崎って駅前はものすごく発展しているんです。でもちょっと行くと、大きな川や山がある。だから今にして思うと東京都内の設定と、地方の設定、これを同じ町で撮れるのは高崎だけだったんじゃないかなと思います。
『由宇子の天秤』© 2020 映画工房春組 合同会社
Q:各シーンのロケーションがとてもいい雰囲気です。特に冬の寒々しい地方都市の情景が印象的です。
春本:いい場所が次々に見つかったんですよ。ファーストシーンの川もそうだし。団地も印象的でした。あの団地も1970年代のベビーブーム期に建てられたような感じの団地で、部屋のドアや、間取も昭和っぽくて。あと、あのパン屋さん!奇跡的に見つかりましたよ。高崎で露店のパン屋さんを見つけなきゃいけないって、すごくハードル高いなと思って。でグーグルマップで調べて、「おお!ここにパン屋あるじゃないか」と。で飛び込みで入ってパンを買って、レジをしてもらっている時に「実は・・・」みたいな感じで話をしたら「いいよ」って。「マジすか!」みたいな(笑)。
Q:高崎は映画に優しい街のイメージがありますよね。
春本:そうだと思います。シネマテークたかさきさんが、そうやって地域で育んできたつながりで、作り手を応援してくれるんです。