今泉力哉監督の最新作『かそけきサンカヨウ』は、人気作家・窪美澄の短編集の一篇を、監督自身が映画化を切望したもの。両親の離婚のため、早くに大人にならざるを得なかった少女の日々の移ろいを、今泉監督ならではの温かくやさしいまなざしで描き出す。
主人公の少女・陽を演じるのは志田彩良。一見おだやかで静かに見えるその佇まいの中に、大きく揺れ動く心の移ろいを見事に体現している。そんな陽をそっと見守る父親の直。演じたのは、今泉作品初出演の井浦新だ。
これまで二人だけで生きてきた父娘ならではの、独特で自然な距離感、そして作品全体をつつみこむ“やさしさ”は、どのように生み出されたのか？ 志田と井浦の二人に話を伺った。
『かそけきサンカヨウ』あらすじ
幼い頃に母が家を出て、ひとりで暮らしを整えられるようになっていった陽は、帰宅してすぐに台所に立ち、父とふたり分の夕飯の支度にとりかかるのが日課だ。ある夜、父が思いがけないことを陽に告げる。「恋人ができた。その人と結婚しようと思う」ふたり暮らしは終わりを告げ、父の再婚相手である美子とその連れ子の4歳のひなたと、4人家族の新たな暮らしが始まる。新しい暮らしへの戸惑いを同じ高校の美術部に所属する幼なじみの陸に打ち明ける陽。実の母・佐千代への想いを募らせていた陽は、それが母であることは伏せたまま、画家である佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をするが・・・。
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等身大の志田彩良と混じり合っていた“陽”
Q：志田さんは主演としては初めて、井浦さんは初めての今泉作品への出演ですが、今泉監督とのお仕事はいかがでしたか？
志田：これまで今泉監督とは、『パンとバス2度目のハツコイ』（18）と『mellow』（20）、そして今回の『かそけきサンカヨウ』、ドラマや舞台も含むと6作品ほどご一緒させていただきました。今泉作品に出演できるだけでもありがたいのですが、今回はまさかの主演。私の中で目標にしていたことがこんなにも早く実現されたことに、嬉しさもある反面、緊張もありました。
以前の現場では「こういう風にしてみようか」と、今泉監督からアドバイスをいただくことが多かったのですが、今回はそれがほとんどありませんでした。多少不安に感じる部分もあったのですが、それ以上に、これまで築いてきた信頼関係のおかげで、僭越ながら絶対的な安心感もありました。
『かそけきサンカヨウ』© 2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会
井浦：今泉監督の作品はたくさん観ていましたし、どんなバイタリティを持った監督なんだろうと強い興味もあり、今回は念願かなっての参加でした。今泉監督は一見静かで物腰が柔らかいのですが、その内側には、まるでものすごい馬力のあるエンジンを積んでいるようでした。現場でいつも悩んだり苦しんだり、自分自身と格闘されている姿を見ていると、“人間”というものを一緒に追求して行くことができる。そう思わせてくれる監督でした。
Q：お二人の共演について、お互いの印象を教えてください。
井浦：等身大の志田さんがもっている瑞々しく真っ直ぐなものと、陽という人物像がちゃんと混じり合っていました。陽の瑞々しさや不安などが、演技だけではなく志田さんの内側から出てくるもので表現できていたことは、とても素晴らしかったと思います。撮影現場やこういうインタビューでも、自分の感じたことや思いをちゃんと言葉に換えて伝えることができる。すごく芯の通った方だなと感じています。
志田：いや、そんな…。そんなことないです（笑）。でもそんな風に仰って頂けて、とてもありがたいです。
新さんは全てにおいて丁寧な方だという印象が強いです。お芝居はもちろんのことですが、普段お話ししている姿も、一つ一つ言葉を選びながらとても丁寧に話されるので、本当に嘘のない方だと思いました。お芝居で嘘をつかないということは、私の一つの目標でもあるので、現場やこのような機会に新さんを間近で見て、すごく勉強させて頂いています。
井浦：ありがとうございます。
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