例えるならビートルズ以前のミュージシャン
Q:予算以上に見せるという意味で言うと、お2人の手がけた映画はどれも、結構予算がかかっているように見えます。
大根:『モテキ』という出始めが良くなかったと思うんですけど、僕は東宝の中ではローリスクハイリターンを求められる監督ですね(笑)。お前に与えられる予算はこれが上限、でも当てろよという。東宝で4~5本撮りましたが結局予算は増えなかったですね。一番最近撮ったのは『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)ですが、宣伝費も含めてトータルしても全然増えていないと思いますよ。
Q:吉田さんの『騙し絵の牙』もすごくお金がかかってるように見えますが。
大根:吉田さんの映画は予算以上に見えますよね。
吉田:そう言われると嬉しいです。さっきも言いましたが他人のお金で撮っていることは本来弱みじゃないですか。お金を出す人からの信用が、監督という立場の支えなので。やっぱりそこで、その信用に対して何を返せるのか、いつも気になります。興行収入なのか評判なのか、とにかくお土産をつけて返したいと思うんですけど、なかなかうまく行かないです。
大根:吉田さんが映画監督としてキャリアを重ねている中で、どんどん上手くなっちゃっている自分への恐怖というのはありますか。
吉田:上手くなっているかどうかは分からないですね。もちろん以前に撮った映画を観ると、今だったらこうは撮らないなというのはあって、CMでもそれは感じますね。それが上手くなるということなのか、単に自分の好みや志向が変わってきたのか、どちらか分からない。『騙し絵の牙』のお土産プレッシャーも結構大きかったので、次はちょっと違う気分でつくれたらいいなと思っています。
大根:ちょっと映画はお休みですか。
吉田:そうですね。いつ再開できるかは分からないですけど。
大根:僕もお休み中なんですよ。自分の中で自己模倣というか、縮小再生産に陥っていることはわかっていて、少し距離を置いた方が良いなあと。
Q:お二人は何かしら原作がある作品を手がけられていることが多いですが、オリジナル作品の制作などは今後お考えですか?
大根:さっき監督をミュージシャンに例えて話しましたが、僕は自作自演タイプのミュージシャンでもなく、スタジオミュージシャンタイプでもなく、DJだと思ってるんですよ。既にあるものをかけて盛り上げていく、既にあるものを繋ぐのが得意という自覚がある。DJがいきなり「次は僕の曲です」って歌い始めても変じゃないですか(笑)。
吉田:たまにはびっくりして新鮮かもしれないですけどね(笑)。いくつかネタはあるけれど、それに似ている原作が見つかればそれでもいい、くらいの気持ちです。その方が話が早い。どっちでもいいんです。だってどうせ映画にする時は原作とも変わるし、そうならざるを得ないわけだから。
大根:僕も原作を脚本化しますけど、吉田さんの原作からの換骨奪胎ぶりって凄まじいじゃないですか(笑)。
吉田:そうですね、やりすぎて反省するときもありますが(笑)。原作があるものはスタートが早く切れるから、結果的にいつもオリジナルが後回しになってしまう。でも、観る人にどれくらい関係あることなのか、正直わからないです。シンガーソングライターの歌のほうが、やっぱり感動するんですかね?
大根:観る方からすれば、作詞作曲もやっている方が才能がある感じがしますよね(笑)。
吉田:その感じは多分ビートルズ以来ずっと続いてるんですよ。じゃあ僕らはビートルズ以前ってことで(笑)。
Vol.1では、二人の出自や異業界からみた映画業界、フィルムについてなどを語っていただいています。こちらもお楽しみください!
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【ゲストプロフィール】50音順/敬称略
映像ディレクター:大根仁
1968年生まれ 東京都出身。映画監督・映像ディレクター。テレビドラマ『モテキ』『まほろ駅前番外地』『共演NG』などの話題作を数多く手掛ける。2011年劇場版『モテキ』で映画監督デビュー。その他の作品に『バクマン。』『SCOOP』『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』など多数。 2019年に外部演出家として初めてNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』に参加。『モテキ』で第35回日本アカデミー賞話題賞 作品部門、『バクマン。』で第39回日本アカデミー賞優秀監督賞、第25回日本映画批評家大賞監督賞など多くの映画賞を受賞。現在は長編アニメを制作中。
映画監督・CMディレクター:吉田大八
1963年生まれ。鹿児島県出身。大学卒業後、現在に至るまでCMディレクターとして活動。2007年「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で長編映画デビュー。第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待された。「桐島、部活やめるってよ」(12)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞。最新作は「騙し絵の牙」(21)。舞台では「ぬるい毒」(13)脚本・演出、「クヒオ大佐の妻」(17)作・演出。ドラマ監督作品に「離婚なふたり」(テレビ朝日 19)がある。直近ではAmazonMusicの短編プロジェクト「Music4Cinema」のうち「No Return」(21)を監督した。
【MCプロフィール】
CINEMORE編集長:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
取材・文:山下鎮寛
1990年生まれ。映画イベントに出没するメモ魔です。本業ではIT企業を経営しています。