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『クレッシェンド 音楽の架け橋』ドロール・ザハヴィ監督 深刻な中東の現実の中にも希望の光を感じてほしい【Director’s Interview Vol.177】
ヨーロッパを体現したカルラ
Q:第二次世界大戦から76年以上が経ち、世界中で歴史が風化しはじめ、あろうことか捏造すら始まっている今、スポルクの両親が元ナチスという設定はとても重要なポイントだったと思います。この設定に込めた意図を教えてください。
ザハヴィ:まさにおっしゃった通りの理由です。歴史をちゃんと伝えることを意図しました。ホロコーストは人類史において最悪な悲劇だったと思いますが、それでも人類は何とかそれを止めることができた。だったら人類は、パレスチナとイスラエルの紛争もまだ解決できる。そう感じてもらえる一つの例として、スポルクの生い立ちを設定しました。
『クレッシェンド 音楽の架け橋』© CCC Filmkunst GmbH
Q:和平コンサートを企画するトレーダーのカルラは、一見素晴らしい人物に見えますが、それだけでは終わらないシニカルな描かれ方となっています。このキャラクターが体現するものは何だったのでしょうか?
ザハヴィ:カルラは自分にとって重要なキャラクターです。今まで取材を受けた中でカルラについての質問は初めてなので、すごく嬉しいですね(笑)。
今の世の中には、問題解決のプロみたいな方々が存在していますが、彼らは問題に対して感情面でつながりがあるわけではなく、世界のために何かしたいというイデオロギーとつながっています。カルラもまさにそういう人間で、自分の持てるもの全てをかけて和平コンサートを成功させようとは思っているけれど、もし現実的に成功する見込みがないとなれば、他の問題解決プロジェクトへさっさと鞍替えしてしまう。
一方でスポルクの場合は、関わっている人々に対してものすごく気持ちを入れているので、プロジェクトが成功しなかった場合は、打ちのめされてしまう。
こうしてスポルクと比べてみると、カルラは合理的で冷たいところがありますよね。これは実は、世界的な問題に対してのヨーロッパの対処の仕方を、カルラのキャラクターに反映しているんです。
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監督・脚本:ドロール・ザハヴィ
1959年2月6日、イスラエル・テルアビブ生まれ。テルアビブ南部の貧しい地域で育つ。1982年、奨学金を受け、旧東ドイツのコンラート・ヴォルフ映画テレビ大学で演出を学ぶ。 卒業制作の“Alexander Penn - Ich Will Sein In Allem”(88・原題)は学生アカデミー賞にノミネートされた。卒業後はイスラエルで映画評論家として活動。ベルリンの壁崩壊直前の1989年の秋にベルリンに渡り、1991年から永住。テレビ番組の製作に勤しむ傍ら、イスラエルとパレスチナの政治的対立をテーマとして扱った 長編映画“For My Father”(08・英題)を監督し、モスクワ国際映画祭の観客賞、ブルガリアのソフィア国際映画祭のグランプリをはじめ、多くの賞に輝いた。その他の作品に、『ブラック・セプテンバー ~ミュンヘンオリンピック事件の真実~』(12)などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『クレッシェンド 音楽の架け橋』
2022.1.28(金)
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
配給:松竹 宣伝:ロングライド
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