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『ジョジョ・ラビット』外見は不謹慎、中身は眩い愛。「戦争」を問い直すラブストーリー

(C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

『ジョジョ・ラビット』外見は不謹慎、中身は眩い愛。「戦争」を問い直すラブストーリー

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『ジョジョ・ラビット』あらすじ

10歳のジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、ひどく緊張していた。今日から青少年集団ヒトラーユーゲントの合宿に参加するのだが、“空想上の友達”アドルフ(タイカ・ワイティティ)に、「僕にはムリかも」と弱音を吐いてしまう。アドルフから「お前はひ弱で人気もない。だが、ナチスへの忠誠心はピカイチだ」と励まされたジョジョは、気を取り直して家を出る。


時は第二次世界大戦下、ドイツ。ジョジョたち青少年を待っていたのは、戦いで片目を失ったクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)や、教官のミス・ラーム(レベル・ウィルソン)らの指導によるハードな戦闘訓練だった。何とか1日目を終えたもののヘトヘトになったジョジョは、唯一の“実在の友達”で気のいいヨーキーとテントで眠りにつくのだった。


ところが、2日目に命令通りウサギを殺せなかったジョジョは、教官から父親と同じ臆病者だとバカにされる。2年間も音信不通のジョジョの父親を、ナチスの党員たちは脱走したと決めつけていた。さらに、〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられ、森の奥へと逃げ出し泣いていたジョジョは、またしてもアドルフから「ウサギは勇敢でずる賢く強い」と激励される。元気を取り戻したジョジョは、張り切って手榴弾の投てき訓練に飛び込むのだが、失敗して大ケガを負ってしまう。


Index


戦争を愛で否定する、ワイティティ監督の私的な作品



戦時下で真っ当に育ち、普通に洗脳された少年。

彼が恋を「知り」、愛を「学ぶ」とき、世界は正常に動き始める。

これは、とてつもなく優しい“自立”のラブストーリーだ。


 どれほどのハードルを越えて、この作品を生み出したのだろう。実に勇気のある戦争映画だ。『ジョジョ・ラビット』は「ナチス・ドイツに憧れる10歳の少年の“空想上の友だち”は、ヒトラーだった」といった不謹慎で挑戦的なアイデアを、とびきりの愛にくるんで描いた一作。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17)で、既存の真面目トーンをコメディ路線へ180度転向させた改革派、タイカ・ワイティティ監督にしかできない“劇薬”といえる。


 舞台は、第二次世界大戦中のドイツ。いじめられっ子の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)の理解者は、空想上の友だちであるアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)だけだった。憧れの青少年集団ヒトラーユーゲントで立派な兵士になろうと努力するも、訓練でウサギを殺せず、「臆病者のジョジョ・ラビット」と周囲から蔑まれてしまうジョジョ。しょげていた彼はある日、母親ロージー(スカーレット・ヨハンソン)が屋根裏に匿っていたユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)と邂逅。“敵”である彼女と歪な交流を続けるうち、自分の中の気持ちが変化していくのに気づく。今まで持っていた常識や普通は、本当に正しかったのだろうか? お腹がムズムズしてくすぐったいこの感情は、何なのだろう? 本作は10歳の少年の目で、戦時下の青春を瑞々しく描いている。


『ジョジョ・ラビット』予告


 本作は2019年の第44回トロント国際映画祭で世界初上映され、観客賞を受賞。第77回ゴールデングローブ賞では、ミュージカル・コメディ部門の作品賞と主演男優賞にノミネートされた。第25回放送映画批評家協会賞では子役賞(新人俳優賞)を受賞し、第92回アカデミー賞では作品賞・助演女優賞をはじめ、6部門にノミネート。新星ローマン・グリフィン・デイヴィスを中心に、賞レースにがっちりと食い込んでいる。全米最大の批評サイト「Rotten Tomatoes」では観客スコア95%、総合評価80%を獲得。テーマがテーマだけにもっと評価が割れてもおかしくないが、観た者のハートをしっかり掴んでいることが分かる。


 監督・脚本・出演と大車輪の活躍を果たしたワイティティ監督は、2011年の時点で脚本を書き上げていたという。「憎悪と偏見についての直球の映画にはしたくなかったから、脚本には全く自制をかけなかった。言うべきことを言うには、ひるまずに決死の覚悟で書かなくてはいけない。危険のないものなら、僕がやる価値もない」と頼もしいコメントを残している。


 またワイティティ監督の母親はロシア系ユダヤ人で、シングルマザーでもあった。故に本作は、「母親へのラブレター」としての意味もあるという。エルサとロージーの2人のヒロインに、母を投影しているのだ。「僕は大人になって自分の子どもができてから、『親はどれだけ犠牲を払って、困難な中で子育てしていたんだ!』と気づいたんだ」。つまりこの作品は、戦争を愛で否定する反戦映画。ワイティティ監督のパーソナリティがこれまで以上に発揮された作品でもあるのだ。



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