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『ジョジョ・ラビット』外見は不謹慎、中身は眩い愛。「戦争」を問い直すラブストーリー

(C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

『ジョジョ・ラビット』外見は不謹慎、中身は眩い愛。「戦争」を問い直すラブストーリー

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社会的弱者が、愛で体制に立ち向かう美しさ



 『ジョジョ・ラビット』は戦時中のリアルな心情を描き、一度ゼロに戻して考え直し、そして戦争映画の“本流”に戻っていく。最初から「戦争反対」のスタンスが明確な作品よりも、よっぽどドラマティックで共感性が高い。同時に、自分たちの固定概念について考えさせられもする。たとえ答えが同じだとしても、ちゃんと自分で考えなければそれは危険なことなのだと、本作は嫌みなく教えてくれる。


 冒頭で『ジョジョ・ラビット』は「自立のラブストーリー」と述べたが、本作の最大の武器は「愛」だ。この愛にはいくつもの種類があり、「ロージーのジョジョへの母性愛」「ジョジョがエルサに抱く親愛」など、殺伐とした時代に温もりを与える。ロージーがジョジョに伝える「人はどんな時も恋に落ちる」「憎しみは勝ちはしない。愛が最強の力よ」「愛は痛いの。お腹の中で蝶が飛び回るような感じ」といった愛の言葉の数々は、作品全体のキーとして後々の展開に大きな影響を及ぼしていく。



『ジョジョ・ラビット』(C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC


 ジョジョは母の教えに「愛なんて見ても分からない」と反発するが、このセリフは非常に重要だ。序盤でヨーキーが語る「ユダヤ人と僕たちの何が違うの? 見ただけでは分からない」というセリフとリンクしているからだ。愛が目に見えないように、人間の本質もまた、目に見えない。逆に言えば、見た目や先入観で判断することもナンセンスだ。差別というものがいかに不毛な行為なのか、端的に表した見事な仕掛けといえよう。


 ここで、本作と共通する点も多い『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)と『スリー・ビルボード』(17)について考えたい。奇しくもこの3作品はFOXサーチライトの映画であり、「常識の否定」「様々な愛の形」「マイノリティが自分たちの場所を勝ち取る」「暴力の対抗策は愛」といった多くのキーワードが重なり合う。スタジオならではのカラーや精神性が、静かにリンクしているようだ。


 『シェイプ・オブ・ウォーター』は不思議な生き物と声が出せない女性の恋愛を描きつつ、社会的弱者が暴力を越えていく姿を描いた。『スリー・ビルボード』は、これまでの映画にはなかった“赦し”と復讐の正当性を伝えた。どちらも、市井の人々が声を上げる映画だ。


『シェイプ・オブ・ウォーター』予告


 そして『ジョジョ・ラビット』もまた、弱者が体制に立ち向かう姿を描いている。ロージーは反逆者であり、エルサは時代にすべてを奪われ、ジョジョは事故で軽度の障害を負い、クレンツェンドルフ大尉にはゲイを想起させる描写がある。だが、彼らは「愛」でもって闘い、自分たちの正義を貫いていく。


 恋を知り、愛を学んだ少年ジョジョは、時代のよどみを越えて強く一歩踏み出してゆく。そのはなむけとなるのは、詩人ライナー・マリア・リルケの「全てを経験せよ 美も恐怖も 生き続けよ 絶望が最後ではない」との言葉だ。


 コメディタッチであり優しい慈愛の眼差しに包まれているが、戦争の悲惨さを鋭く切り取り、残酷な描写もいとわない。ただそれでもなお、愛を信じようとする。そしてまた、加害者と被害者双方のドラマを中立に描く。『ジョジョ・ラビット』は、何一つ決めつけてかからない。奇抜で風刺的な外見に隠されているのは、愚直なほど真摯に主題と向き合う「人間」の姿だ。


 愛も、人も、見た目では分からない。だからこそ私たちはジョジョがエルサと向き合ったようにまず話し合い、理解を深めるべきなのだろう。


 平和はきっと、対話から始まる。そしてそこには必ず、見えない愛が隠れているのだ。



文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema



作品情報を見る



『ジョジョ・ラビット』

2020年1月17日(金) 全国公開!

ウォルト・ディズニー・ジャパン

(C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

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